6.5cmの恋人 |
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どこかでドアが閉まる音を聞いた気がして、快楽に蕩けていた拓海の頭は瞬時に冷えた。 (誰かいる・・・!) 己を慰めていた指すらそのままに、拓海は湯の中で硬直した。 「藤原、ちょっといいか」 (りょ、涼介さん・・・!!) 何をどうする間もなかった。慌てふためく拓海の前で、無造作にバスルームの戸が開いた。
(なんで涼介さんがいるんだっ) ここは涼介の家でもあるわけだからいるのは当たり前なのだが、 (いったいいつからいたんだよ!?) 内心逆切れして啓介に詰め寄りたい気はやまやまだったが、 「お・・・おはようございます」 微笑まれて、拓海が頬を染めながら挨拶する。 「取り込み中すまないが、風呂からあがったらそこの生き物を連れてオレの部屋に来てくれ」 おい!イキモノって俺のことかよ!と拓海の肩口で憤慨する声は綺麗に無視された。 「仲がいいのは結構だが、のぼせないようにな」 それって、それって・・・。
コンコンと戸をノックすると中から涼しげな声がどうぞと言った。 「すまないが、ベッドに座ってくれないか」 机に背を向けて椅子に座っている涼介が、拓海に促した。 「啓介。おまえこれを飲んだだろう」 と目の前にかざしたのは、何の変哲もない、スポーツ飲料のペットボトルだった。 「啓介さんっ、あんたやっぱり!」 さっそく口喧嘩を始める二人を制して、涼介はかざした500mlペットボトルを裏返した。 「冷蔵庫に入れていたのがなくなっているからまさかと思って、 これを無事というのだろうか・・・ 涼介以外の二人は同時に思ったが、口にはできなかった。 「啓介さん、飲んで気づかなかったんですか?」 いくらなんでも養毛剤なんて・・・と呆れた目で見下ろす拓海の手の中で、 「だってちゃんとダ●ラの味だったぞ!それに・・・そうだ、おまえも飲んだだろーが!」 小さな指をむけられて拓海はきょとんとする。 「口移しで飲ませたろ。あん時おまえ、少しだけ目覚ました」 口移し、で思い出した。 「うそ・・・俺も飲んじゃったよ・・・」 よりによって微生物入りの養毛剤を。 「でも何で拓海はなんともないんだ?」 涼介は医者の目で拓海を観察し、やがて結論を下す。 「どうやらカギは藤原が持っているらしいな」
「ハブやマムシ用の血清の作り方を知っているか?」 そんなもん知っているハズがない。二人は首を振った。 「馬などの大型動物に、対象となるヘビの毒を少しずつ、 ふんふんと頷きながらも話が見えない様子の二人に、涼介は苦笑した。 「同じものを飲んでも藤原は何ともなかったのなら、 はあ、と頭をフル回転させて、拓海は涼介が言わんとすることを理解しようとする。 「それって、注射とかするんですか?」 手の中の啓介がぴくりと動いた。涼介はどこか人の悪い微笑を浮かべる。 「他の方法もあるぜ。例えば・・・さっきのバスルームの続きをするとか、な」 バスルームの続き・・・続き!? 瞬間、拓海の頭の中は真っ白になった。 「お、俺ッ、注射でいいです!!」 というかむしろ注射がいい。どうか普通の方法で治療して欲しい。 「普通はそうするところなんだがな・・・啓介は注射が嫌いなんだ」 え?まさか。と目をむけると、 「・・・・・・」 啓介は拓海と目を合わせないまま固まっている。 「それにこのサイズだと投与する量も読めないからな・・・経口ならそう危険もないだろう」 そう言われてしまっては、拓海に反論できるはずもなかった。
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