アカギの長い夜

 

 

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「バトルは楽しいってあんたたちはいうけれど、そのバトルであんたたちはどんな目にあいました?」

拓海はそういって兄達の誘いを断りました。
拓海はどうあっても2人の言葉に耳をかさなかったので、
慎吾とケンタはしぶしぶ自分の店に帰り、まえと同じように商売をしておりました。

しかし、2人の兄はまる1年というもの、バトルに行こうと拓海を口説き続けました。
拓海は最初はどうしても応じませんでしたが、1年たってからとうとう折れて、こういいました。

「わかりましたよ。あんたたちのつきそいでいいなら一緒に行ってもいいです。」

 

 

「ところで、旅に出るとして、あんたたちはどれだけお金を持っているんですか?」

と拓海がたずねると、2人はまたこりずに前と同じ愛車を買い、
チューニングや板金にお金をつぎ込み、びた一文持っていないことを知りました。

しかし、拓海は言っても無駄と思ったか、一言も咎めませんでした。
それどころか、銀行から貯金すべてを降ろしてきて、
自分は毎日配達に使っているハチロクに乗り込み、兄達と一緒にバトルの旅に出ました。

くる日もくる日も旅先でバトルをしかけ、勝ったり負けたりを繰り返しましたが、
まるひと月たってやっと大きな街につきましたので、彼らはそこでクルマをメンテナンスに出しました。

それから、もういちどバトルの旅に出ようとしていると、拓海はたまたま迷い込んだ路地裏で、
ぼろをまとった男が行き倒れているのをみつけました。

 

ぼろぼろの服はところどころ血がついていて、全身傷だらけのようです。
生きているのかと、おそるおそる男に触れたとたん、
彼は弾かれたように半身を起こし、拓海をものすごい目で睨み付けました。

「んだよ、ぶっ殺すぞてめぇ!」

しかし、驚きのあまり硬直した拓海の前で、まだ若いその男はふたたび前のめりに倒れこむと、
今度こそ死んだようにぴくりとも動かなくなりました。

拓海はしばらく悩んだ末、この男を宿につれて帰りました。

 

拓海はこの男を宿につれて帰ると、ぼろぼろの服を脱がせて手当てをしました。
男は時折痛そうに顔を歪めましたが、いっこうに目を覚ましませんでした。

拓海に凄んだその男は、目を閉じるときつい印象が幾分やわらいで、
しかも荒削りながらもかなり整った顔立ちの男前だということに気づきました。
傷だらけの身体も長身ながら均整がとれていて、
同性なら羨ましく思わずにはいられない容姿をしておりました。

拓海は兄達に先に行かせ、3日間看病を続けると、男はとうとう目を覚ましました。

 

「イテテ、ちくしょう・・・この俺様が人間風情にやられるとはな」

まだ寝ていたほうが、と止める拓海を無視して男は後頭部を抑えつつ起き上がりました。
そして顔を上げると、例のきつい眼差しが拓海を捕らえました。

「世話になったな・・・おまえ、名前は」

えらそうな物言いにややむっとしながらも、「藤原拓海」と答えると、
男は金色の髪を頭をかき上げつつ、

「腹減った。メシ」

と要求してきました。

拓海は腹を立てながらも宿屋の食堂で頼んで食事を持ってくると、
黙々とそれを平らげました。
何度もおかわりをして、やっと空腹が落ち着くと、拓海が用意した新しい服に袖を通し、
すたすたとドアに向かいました。

「俺は高橋啓介。この礼はいつかするぜ、藤原」

そう言うと、呆然とする拓海を残して出て行きました。

 

 

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