アカギの長い夜

 

 

12

 

宿を引き払った拓海が兄達の向かった峠にたどり着くと、
兄達は地元のチームとにらみ合っている最中でした。

「何度言ってもダメなもんはダメだ。俺たちは地元じゃバトルしねぇ」

腕組みして宣言しているのはなんと、今朝出て行ったあの青年でした。

「あんたは・・・」

思わず呟いた拓海に気づいた彼は驚いたように目を見開き、
それから何かよからぬことをおもいついたかのように口の端を吊り上げました。

「・・・わかった。そこまで言うなら遊んでやってもいいぜ」

遊ぶ、という言葉に気色ばむ兄達をさらに挑発するように啓介は笑います。

「ただしダウンヒル一本だけ。相手はそのハチロクだ」
「ええっ!?」

 

 

啓介の要求に、兄達は当然反発しました。

「FDにハチロクで勝負しろだと!」
「それにこいつはバトル要員じゃねえ!」

しかし啓介は一歩もひきません。

「だからこればバトルじゃねぇ。遊びだつったろ。嫌ならお断りだ」

にべもない啓介に、兄達はしぶしぶその条件を飲みました。

 

「啓介」

そのまま黄色のFDに乗り込もうとする啓介を、呼び止める声がありました。

「わかってるよアニキ。だけどこれはバトルじゃねぇから。それに」

宿に運ぶ間、一度も啓介を苦しめなかった拓海の運転。
そしてここに来たときのコーナリング。
啓介には予感がありました。

(たぶんこいつ、なかなかやる・・・!)

 

啓介の予感は的中しました。
そこにいる誰の予想もを裏切って、スタート時に振り切ったはずのハチロクは
ふもと近くのコーナーで鮮やかにFDを抜いていきました。

リーダーの高橋涼介は潔く負けを認め、
拓海たちがチームと一緒に走れるように取り計らいました。
慎吾とケンタはひととおり走りを楽しみ、
拓海はタイヤ交換などを手伝いながらぼーっと見ているだけでしたが、
やがて次の峠に向かうことになりました。

荷物を積み込み、明け方近くに出発すると、ふもとに下りる途中、
一行は峠道の真ん中に人が立っていることに気づき、一斉に急ブレーキをかけました。

 

キキキキキィー!!!

「バカヤロー!死にてぇのかぁ!・・・・ぁ?」

なんと立っていたのは高橋啓介でした。

「藤原拓海に話がある。悪いが席をはずしてくれねーか」

凄まれて、兄達は文句を飲み込み、しぶしぶ先に行きました。
拓海は促されてハチロクを降りると、長身の男を見上げて

「話ってなんですか」

とたずねました。

考えてみれば、まともに向き合ったのは、宿で啓介が目を覚ましたとき以来です。
バトルの後はなぜか避けられているような気さえしたものでした。

啓介はタバコを地面に落として踏みつけると、拓海の目を見て言いました。

「藤原。俺とケッコンしてくれ」
「はぁ!?」

 

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