アカギの長い夜

 

 

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灼熱の太陽が砂を焼く、アカギの宮中。

「はあ・・・」

緑の美しい中庭をぐるりと囲む広い回廊を、拓海はよろよろと歩いていました。

空が完全にしらむまでえっちした後は昼まで啓介と眠り。
一緒に食事した後、啓介は公務に出かけます。
拓海は女官たちに囲まれて湯浴みと念入りなお肌のお手入れ。
日が沈むと女官や給仕に囲まれながら一人で食事をとり、
その後やはり女官に囲まれながら二度目の湯浴み。
着替えをすませてきちんと整えられた寝室で待っていると啓介がやってきます。

なにもしていないのに、今こんなふうにひとりでいられる時間はほとんどありません。
こんな生活、ついこの間までは想像もつきませんでした。

「ねむ・・・」

強い日差しをさえぎる木陰の下、拓海は背を太い幹に持たせかけてうとうとしはじめました。
家にいたころと睡眠は大して変わらないはずなのですが、特に啓介にがんばられた翌日は、
眠った後でも体が重い感じがします。

「またなんか話をするかなあ・・・」

話をしている間は啓介もおとなしいので、体の負担が少ないことを拓海は悟りました。
いくら若いからといって毎日毎日一晩中喘がされていては拓海の身が持ちません。

話を聞いているときの啓介の期待に満ちた表情を思い出すと、自然と拓海の気持ちは和らぎました。

「何話そう・・・」

その夜に訪れる嵐のことなど知る由もなく、拓海は眠りに落ちました。

 

その日の夕方はいつもと様子が違いました。
いつもより早く拓海を捜しに来た女官たちにせかされながら、あわただしく湯浴みをさせられ、
いつもよりきらびやかな衣装を着せられ、いつもより多めにに装飾具をつけられ、
いつもと違って薄化粧までさせられました。

「今日の晩餐は、陛下と殿下とご一緒に召し上がることになっております」

女官長の重々しい口調に、拓海はつい、はあ、と気の抜けた返事をして、彼女に怒られてしまいました。

すでに3人分の仕度が整えられた食事の間に通され、用意された席にちょこんと座っていると、
まもなく国王の涼介と、啓介が入ってきました。
涼介は上座に優雅に腰をおろし、啓介はその右側、つまり拓海の正面にどかりと腰を下ろしました。

「藤原拓海・・・だったな。本当はもっと早くに会いたかったんだが、啓介がなかなか会わせてくれなくてね」

きれいな顔で微笑まれて、拓海はたちまちぼーっと見とれてしまいました。

(どうしよう・・・すげーかっこいい、この人・・・!)

アカギの国王、涼介陛下は三国一の美男子だとか、おかげで即位前からお后候補が後を絶たないとか、
噂は拓海も知っていましたが、実物を近くで見るのははじめてです。

「啓介はわがままだから、いろいろ大変だろう」
「はぁ・・・いえっ、そんなことは」

実は涼介に会ったら山ほど言いたいことがあったのです。
一体弟をどんな育て方したんだとか、あんたが甘やかすからこのヒトは、とか、
そもそもいつまでここにいればいいんだとか、アカギの山よりも高く積もっていたこれらの文句は、
涼介の笑顔の前に、朝日に照らされた露のように消えてしまいました。

涼介は拓海に啓介の子供の頃の話をし、拓海は涼介に乞われるままに、
ここに来る前の生活のことなどを話しました。

拓海の目はすっかり涼介に釘付けだったので、目の前の啓介の形相には長いこと気づきませんでした。

 

 

 

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