アカギの長い夜

 

 

20

 

(国王陛下ってこんなかっこいいひとだったんだ・・・)

ぼーっと見とれていた拓海は、不意にものすごい力で腕を掴まれ、引っ張りあげられました。
びっくりして振り向く間もなく、拓海はほとんど啓介に引きずられるようにして部屋から出ました。

「ちょっ・・・どこいくんですか!」
「うるせえ!」

啓介は痛いほど掴んだ手を緩めないまま、どんどん拓海の知らない廊下を進んでいきます。
やがて、拓海が使っている寝室よりはるかに立派な部屋に入ると、
啓介は拓海をその奥にある大きな天蓋つきのベッドの上に、乱暴につきとばしました。

「いたっ・・・」

ベッドにおしつけられたとたん、髪につけられた飾りが頭にぶつかりました。
しかし啓介はかまわず拓海にのしかかり、衣服を剥ぎ取ろうとします。

「啓介さんっ・・・オレ風呂はいりたいっ」
「メシの前に入ってんだろ。アニキの前だからってめかしこみやがって、すげームカつく!」

首筋や鎖骨のあたりの柔らかい皮膚に痛いほど吸い付いては跡を残し、
駄々っ子のように不満をあらわにする啓介に、拓海は今は何を言っても無駄と悟りました。
そうして啓介の首に両腕を回し、執拗なキスをなだめるように受け入れ、
腰帯を解いてズボンを剥ぎ取ろうとする動きに協力していましたが、

「・・・啓介。そういうことは自分の部屋でやれ」

頭上から降ってきた凛とした声に、拓海は凍りつきました。

おそるおそる声のしたほうに目を向けると、つい先刻まで見とれていた美貌が、
厳しい表情を啓介に向けていました。
啓介はちらりと涼介をみましたが特に驚いた様子もなく、知らん顔で拓海の下肢に
手をもぐりこませます。

「ちょっ・・・やめてください!」
「なんだよ、おまえいつもココ弄られて悦んでんだろ?いつもみたいに鳴いてみせろよ」

はかない抵抗をする拓海を、啓介は物騒な光を帯びた目で見下ろしていました。

(だめだっ、このままじゃやられてしまう!)

人前で、しかも王様の前でえっちをするなんてとんでもありません。
急所を握りこまれ、流されそうになるのを必死にこらえて、拓海はめまぐるしく考えました。

「は、はなし・・・」

苦し紛れに口をついた言葉で、拓海はひらめきました。

「啓介さん、話!今夜はとっておきの話をしてあげようとおもってたんです!」

すると啓介はぴたりと動きを止めました。

「啓介さんの大好きな、眠れない時間が早く過ぎちまうような、楽しくて、おもしろい、
これまで聞いたことのない話ですよ。
でも今夜話さないとたぶん忘れてしまいます」

拓海は必死でした。
啓介は拓海から手を引いてちょっと考え、

「その話聞かせろよ」

といつもの表情に戻って言いました。

拓海はほっとして、じゃあ部屋に戻りましょう、と啓介を促したところ。

「おもしろそうだな。その話、俺にも聞かせてくれないかな」

涼やかな声に、拓海は再び固まりました。

「いえっ、陛下にお聞かせするような話ではっ・・・」

拓海は焦りました。
啓介に聞かせる話には条件があるのです。
拓海と啓介が出てくる話であること。
その上喜ぶのはたいていどうしようもないえっちな話でした。

「おい。アニキに聞かせるほどでもない話を俺にする気かよ」

低い啓介の声にそうじゃないだろ、アンタ何考えてるんだと思わず逆ギレしそうになりましたが、

「啓介が小さい頃には俺がよく話をしてやったんだ。
その啓介が藤原の話はおもしろいってよく自慢するんだ。俺に
もぜひ聞かせてほしいな」

涼介のやさしい笑顔につられて、拓海は後先を考えずについ

「はい・・・」

と返事をしてしまいました。

 

 

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