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医者の息子と魔神の物語
「昔々、とても評判の金持ちの医者がおりました。医者には二人の息子がおりました。
上の息子の涼介は勉強熱心でしたが、下の息子の啓介は野山をかけまわっておりました。
やがて年頃になっても、啓介は毎日近くの海へ行って釣りをするのが好きでした。
ある日のこと、いつものように昼ごろ海辺へ出かけ、釣り糸をたらしていました。
糸をひっぱる感触がしたので、ぐいと釣竿を引きますと、やけに重たいではありませんか。
啓介は釣竿を固定すると、着物を脱いで、釣り糸のあたりに飛び込んで、
釣り針がひっかけたものを探り当てると、一生懸命になって、やっと陸へ引き上げました。
それは見たこともない、パンダの形をした大きな壷で、 見たところ、
何かいっぱい詰まっている様子でした。
壷の口のところは、鉛の蓋がしっかりかぶせてあり、物々しい封印が施されてあります。
「んだあ?これ。もしかして宝箱か?」
そう思うと、中身を確かめたくなるものです。
啓介はポケットから小刀を取り出すと、鉛の蓋をこじり、やがて壷の蓋を取り外しました。
しばらくすると壷の中から一筋の煙が立ちのぼり、ぐんぐん青空へのぼっていきました。
煙は地面を這って、やがて非常に高くのぼりきると、もやもやしていた煙がひとところに凝り固まって、
魔神になってしまいました。
魔神といっても見かけは啓介より幾分若い青年でした。
薄い色の髪をターバンでまとめ上げ、ほっそりとした白い首筋があらわになっています。
唇はぽってりとしていて肉感的で、啓介を見ているのかいないのかわからない薄い色の瞳は、
いかにも眠そうなまぶたに半分隠れていました。
「ずいぶん若いな・・・おまえ、名前は?」
「藤原拓海」
魔神は眠そうに答えました。
「俺は高橋啓介」
魔神を前にしてもちっとも物怖じしない男をぼーっと眺めながら、
「啓介さん。あんたには死んでもらわなきゃいけません」
と言いました。
「はあ!?」
会ったばかりのぼーっとした顔の魔神にいきなり死の宣告をされて、啓介は仰天しました。
「んだよそれ!?俺はお前を壷から出してやったんだぜ?
海の底から助け出して、陸に引き上げてやった礼がそれかよ!」
怒鳴る啓介にややひるみながらも、拓海は、
「どんな死に方をしたいか、それだけは選ばせてあげます」
と啓介に言いました。
「ざけんなよゴルァ!なんで俺が死ななきゃなんねーんだよ!」
「落ち着いてください。今から話しますから」
そこで拓海は身の上話を始めました。
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