アカギの長い夜

 

 

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「実は、俺は異端の魔族のひとりで、親父がつくった豆腐を他の魔族に毎朝配達していたんです。
でも俺は魔神の中ではまだ若すぎて、本当は配達の仕事をする資格を持っていなかったんです。

ある日、仲がよかった女友達の彼氏の密告で俺はつかまえられて、魔王様の前にひったてられました。
その場にいたその男は得意げに笑って、女友達とのえっちをみんなの前で吹聴していたんです。
俺めちゃくちゃ腹が立って、気がついたら拳の骨が折れるまでそいつを殴ってました。
魔王様は俺を壷の中に閉じ込めて、鉛の蓋をすると、悪霊のひとりに指図して、
海の真っ只中に放り込ませたんです。

俺はずっと壷の中に住んでいました。
最初の百年間はただ寝ていました。
そのうち寝ているのも飽きてきて、

「もし今、ここから出してくれる人がいたら、その人を一生お金持ちにしてあげよう」

と考えていました。

ところがまる百年たっても、誰も助けてくれる人がいなかったので、今度は、

「もし今、ここから出してくれる人がいたら、その人に大地の宝庫を開いてあげよう」

と思いました。

それでも百年間、誰も助けてくれる人がいなかったので、今度は、

「もし今、ここから出してくれる人がいたら、その人の望みを3つ叶えてあげよう」

と思いました。

それでも百年間誰も助けてくれなかったのでちょっとムカついて、

「これから先、もし俺を助けてくれる人がいたら、そいつを殺してやろう。
ただ死に方だけは選ばせてやる」

と思ったんです。

そこに啓介さん、あんたが俺を救い出してくれたんです。
だから、好きな死に方を選んでいいですよ」

 

「ふ・・・」

啓介は拳を震わせました。

「ざけんなてめー!つまりは自分が先輩殴って閉じ込められたんだろーが!」
「あの、先輩とは一言も」
「うるせえ!でもっておまえは今まで寝てたんだろーが!
恩人の命を奪うなんざ魔神の風上にもおけねーよ!」

拓海はきゅっと唇を引き結び、

「恩人だからこそあんたを殺すんです。さっさと言わないと、俺が適当に決めてしまいますよ」

と頑固に言いました。

(くそっ、じじいみたいに頑固な奴だぜ。なんとかしてこいつを説得しないと・・・)

 

啓介は考えました。

(このまま死ぬなんて冗談じゃねー。
魔神といっても見た目はボケたガキ、こいつが頑固にいいはるなら、
こっちも大いに知恵を絞って回避してやるまでだ)

 

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