アカギの長い夜 |
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大臣と王子の話
ある王様に、狩猟のたいそう好きな王子がいましたので、 ある日、啓介王子はその大臣、史裕にともなわれて、狩りに出かけました。 「それ、あの素晴らしい獲物をしとめて王様にご自慢なされ!」 と叫びましたので、啓介はその後を追いかけました。 啓介は途方にくれて、どちらの方角にいってよいのかわかりませんでした。 啓介が 「誰だ、おまえ?」 とききますと、青年は、 「僕はある商人の息子で、藤原拓海といいます。 と答えました。 やがて、とある城跡のそばを通りかかると、拓海は言いました。 「あのう・・・ちょっとトイレいってもいいですか?」 そこで、啓介はその廃墟のところに拓海をおろしてやりました。 ところが、拓海はいつまでたっても姿を見せませんので、 すると廃墟の中で、拓海がだれかとぼそぼそと話しているのが聞こえました。 「なあ親父・・・俺こんなこともうやだよ」 拓海は性質の悪い魔族の一員だったのです。
(冗談じゃねー。食われてたまるか!) 啓介は身を翻して逃げようとしましたが、そのとたんに拓海が出てきて、退路をふさぎました。 「何をそんなにおびえているんですか?」 啓介は答えました。 「実はひょっこり、すっげー手ごわい敵に会ってさ」 それを聞くと、拓海は不審げに眉を寄せました。 「あんたは王様の息子だといってましたよね」 拓海は目を見開くと、しばらくじっと啓介をみつめました。 「・・もしあんたが長生きしたいなら、今すぐここを去って、お城に帰ってください」 拓海の言葉に、啓介は驚きました。 「逃がしてくれんのか?」 小さく微笑む拓海のはかない表情に、啓介の心臓は跳ね上がりました。 「ちょっ・・・啓介さん!俺魔族なんですよ!?」 その後2人は城へ戻り、末永く一緒に暮らしました。
・・・とまあ、こんな話だったかな。」
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