アカギの長い夜

 

 

9

 

とその時。

「ちょっと待ったぁぁ!」

騒々しい足音と共に一陣の風が飛び込んできました。
啓介は肩で息をしながらずいと2人の間に割り込むと、雄牛に向かって言いました。

「こいつは俺がもらうって決めたんだ!アニキにも誰にも渡さないぜ!」

そして拓海の方に向き直り、

「おまえ、部屋からなかなか出てこねーから、こんな時になっちまったけどよ・・・
アニキが人間の姿に戻ったら、親父の店はアニキが継ぐ。
オレはアニキのもとでしばらく修行を積んで、いづれは自分の店を持ちたいと思っている。
その時おまえが隣にいてほしいんだ」
「啓介さん・・・」

啓介の真摯なプロポーズに、拓海は頬を染め、近づいてくる顔にうっとりと目を閉じることで申し出を受け入れました。
雄牛はふっと笑うと、静かにその場を立ち去りました。

 

 

 

 

翌朝。
すっかり満足そうな顔をした啓介が、なぜか一晩でやつれた顔をした拓海を連れて家に帰ると、
そこには人間の姿に戻った涼介が当たり前のように父親を手伝い、店を切り盛りしていました。

それからというもの、店の実権を手にした涼介は父親の代よりも商売を広げ、
拓海をかわいがり、啓介をしごきぬきました。

おかげで啓介もりっぱな商人となって自分の店を持ち、拓海と末永く幸せに暮らしましたとさ。

 

 

・・・どうだ、いい話だろう。」

池谷は話し終えると、魔神の反応をじっと待ちました。

 

 

魔神は一言、

「けっ」

と吐き捨てました。

「少しは満足したが、いまいち物足りねぇな。やっぱりこいつはもらってくぜ」

 

池谷は慌てます。

「待て待て!次はこいつが話す!それで満足したら拓海を犯るのは勘弁してくれないか」
(頼んだぞ、イツキ・・・)

池谷よりもさらに経験が乏しそうな少年、イツキの顔を一瞥すると、啓介はふんと鼻で笑いつつ、

「いいだろう。話してみな」

といったので、イツキは拓海を救うべく、語り始めました。

 

 

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