新年

 

 

3

 

 

毛布をかけてもなお寒い朝。
目が覚めたらそこは、こじんまりとした小さな部屋で。
一人で寝ているベッドがやけに広く感じて。
あの王宮での出来事は夢だったのかとおもう。

 

 

「たっくみ〜」

家に戻ってから三日目になると、拓海が帰ってきたことを知って、幼馴染のイツキがやってきました。
イツキは長い間連絡もよこさなかったことに文句を言い、青年団の池谷や健二も心配してたんだぞ、
と訴えると、拓海はさすがに申し訳なくおもい、二人で集会所に会いに行きました。

「よお、ようやく帰ってきたか」
「王宮はどうだった?きれいなおねーちゃんはいっぱいいたか?」

がたがたいう、粗末な椅子に腰掛けて、まったく以前と変わらぬ態度で話しかけてくる池谷と健二に
拓海は時間が戻ったような、なつかしい気分になりました。彼らに請われて王宮の話をいろいろした後で、
拓海は二人の話が聞きたいと申し出ました。

「話?」
「いつもここでいろいろ話してくれたじゃないですか」

池谷はああ、アレか、と納得し、おやという顔で拓海を見ました。

「おまえ、あの手の話興味なかったんじゃないのか?」
「え、あの」

口ごもる拓海を見て、健二はハハーンと顎に手を当てました。

「さては色気づいたな。拓海もやっとお年頃になったってワケだ」
「そ、そんなんじゃないですよ!ただ王宮で聞きたがる人がいて」
「なんだ、彼女でもできたのか?」
「違いますって!」

集会所はにぎやかさを取り戻し、彼らは時がたつのも忘れて、いろいろな話をしました。

 

「すっかりおそくなっちゃったなー」

帰り道。イツキと別れた拓海はふと思い立って、いつも豆腐の配達で通る山道に向かいました。
砂漠の夜はとても寒いのですが、ちょっと一人で外を散歩したくなったのです。
拓海に請われて、池谷は今まで聞いたことがなかった話をしてくれました。
つられて健二やイツキまで、彼らが知っている話をしました。
その大半はあほらしい話でしたが、啓介なら目を輝かせて喜びそうな話もありました。

「・・・何やってんだ、俺」

もう話を聞かせることなんかないのに。
山の上の湖で、拓海はしゃがみこんで、月明かりが照らす水面に小石を投げました。

「啓介さんなんか、わがままだし、子供だし、えっちは限度をしらないし、すぐ変なことをしようとするし」

気分屋だし、好き嫌い多いし、すげーブラコンだし。

拓海は思いつく限り啓介の悪口を並べ立てました。
だからもう会いたくなんかない、帰ってきて寂しくなんかない。
と思い込もうとしましたが、どうもうまくいきません。
拓海はため息をつくと、白い息にぶるっと体を震わせて、来た道を戻りかけました。

その時。

「っ!」

考え事をしていたために、拓海はその時まで忍び寄ってきた気配にまったく気づきませんでした。

「〜〜〜っ!!」

大きな手が拓海の口をふさぎ、有無を言わさぬ強い力が拓海を近くの木の幹にうつ伏せに押し付け、
衣服の上から乱暴にまさぐりだします。振り向くこともできない拓海の耳元に、飢えた獣のような息遣いが
聞こえてきました。首筋を噛まれ、拓海が痛みに顔を歪めると噛まれたあたりを舐め上げられて、
拓海はパニックに陥りました。男が何をしようとしているのか、今の拓海にはさすがにわかったのです。


その時、ふっと風が運んできた匂いに、拓海は目を見開きました。

(この匂い)

しかし次の瞬間、覚えのある硬いものが腰に押し付けられると、拓海は再び何も考えられなくなり、
力任せに暴れだしました。

「っ!」

振り回した手が何かを引っかき、男がひるんだ隙に拓海は全力で逃げ出しました。
走って走って、ようやくふもとの明かりが見えてきたとき、ようやく足を止めました。
男が追ってこないのを確かめると、拓海はずるずると木の根元に座り込みます。
月明かりにさらされた自分の姿を見ると、ところどころ破れ、すっかり汚れてみすぼらしい姿になっていました。
今の自分はなんて情けないんだろう。
拓海は座り込んだまま泣きました。静かに泣きました。

 

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