水族館
by さかきさま

 

2

 

 ―――グロテスク―――

「うげっ」


 青いライトの間接照明の明かりの中、エイが目の前をふわりと泳いでいく。
 水の中で、やわらかいカーテンのようなヒレの動き。
 見ているだけでも気持ちよさそうに見え興味深げに見ていたが、振り返った背後の水槽を見た途端啓介は固まってしまっていた。
 そこには確かに魚も泳いでいたが、それよりも気になったのはカニだ。
 カニといえば、あの食べるカニ。
 まあそれ以外ないのだが。
 とにかくカニはいいとして、それも普通に水揚げされて売られているカニもいいとして……。

 

 どうにも動揺が隠せないようだ。

「カニだな」

 あまりにそっけなくあっさりと口にした中里に、

「気色悪ぃ〜〜っ!!」

 大声で叫びそうなのを何とかこらえたのか、幾分声を抑えていたが更に叫びそうな感じだ。
 気色悪いといいつつも、じっと水槽内のカニを見たままで。

「ただのカニだろうが」
「何言ってんだっ!こんなにいっぱいしかもでか過ぎるっ!!足なんか絡みまくりで、しかもへばりついてるじゃねェかっ!!うげ〜、カニの上に更にカニが這い登ってるぜ〜」

 心底嫌そうな顔をしている啓介。
 確かに多過ぎるとも思える数かもしれない。
 何といっても、一つの巨大な水槽のほぼ半数が、カニで埋め尽くされているのだから。
 いったい誰がカニを入れるなどと言い出したのだろうか。

「おい、気色悪いってんなら、見なきゃいいだろうが」
「だってさぁ」

 怖いもの見たさで見ているホラー映画じゃあるまいし。

「しばらく、カニ食べるのイヤかも」

 散々気色悪いと言われたカニに向かって、そう呟く。
 カニの言い分だと、きっと食べられたくはないのではないかと思えるのだが、啓介にはどうでもいいことだろう。

 

 少しカニが哀れに思えて、つい変な同情をしてしまう中里でした。

 

 

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