―――グロテスク―――
「うげっ」
青いライトの間接照明の明かりの中、エイが目の前をふわりと泳いでいく。
水の中で、やわらかいカーテンのようなヒレの動き。
見ているだけでも気持ちよさそうに見え興味深げに見ていたが、振り返った背後の水槽を見た途端啓介は固まってしまっていた。
そこには確かに魚も泳いでいたが、それよりも気になったのはカニだ。
カニといえば、あの食べるカニ。
まあそれ以外ないのだが。
とにかくカニはいいとして、それも普通に水揚げされて売られているカニもいいとして……。
どうにも動揺が隠せないようだ。
「カニだな」
あまりにそっけなくあっさりと口にした中里に、
「気色悪ぃ〜〜っ!!」
大声で叫びそうなのを何とかこらえたのか、幾分声を抑えていたが更に叫びそうな感じだ。
気色悪いといいつつも、じっと水槽内のカニを見たままで。
「ただのカニだろうが」
「何言ってんだっ!こんなにいっぱいしかもでか過ぎるっ!!足なんか絡みまくりで、しかもへばりついてるじゃねェかっ!!うげ〜、カニの上に更にカニが這い登ってるぜ〜」
心底嫌そうな顔をしている啓介。
確かに多過ぎるとも思える数かもしれない。
何といっても、一つの巨大な水槽のほぼ半数が、カニで埋め尽くされているのだから。
いったい誰がカニを入れるなどと言い出したのだろうか。
「おい、気色悪いってんなら、見なきゃいいだろうが」
「だってさぁ」
怖いもの見たさで見ているホラー映画じゃあるまいし。
「しばらく、カニ食べるのイヤかも」
散々気色悪いと言われたカニに向かって、そう呟く。
カニの言い分だと、きっと食べられたくはないのではないかと思えるのだが、啓介にはどうでもいいことだろう。
少しカニが哀れに思えて、つい変な同情をしてしまう中里でした。