―――勘違い―――
散々な目に合ったというよりも、周囲の視線が痛かった。
そうそうにさっきまでいた場所を後にして先へと進んでいくと、自然と元来た通路に行き当たった。確かにここから入ってきたはずだが、出口まで同じという風にも見えないが。
「出口って、こっちだったか?」
「他に出る場所なさそうだな」
しかし手に持っているペンライトを返却する係員もいないとなると、どこへ返せというのだろう。
困って立ち止まっているところへ、後から出てくる人が見えた。目で追ってると、そのまま中里達がきた通路ではなく、そのまままっすぐに歩いていくのを見て、
「おい、啓介。向こうにまだ何かあるみてぇだぜ」
「マジ?さっきマンボーって書いてあったから、どこにいるのかと思ったが向こうにもまだ続いてたんだな」
「へぇ、マンボーがいるのか」
元来た通路を戻りながら、分岐点から先の通路へと進んでいった。
「中里〜、マンボーっていたか?」
「いや、見てねェな」
暗いから先が見えにくいというのもあるが、随分広い水族館だというのを実感した。
地方都市の海辺にある水族館じゃなくて、ビルの屋上だというのを忘れてしまいそうになる。
啓介は先程からきょろきょろマンボーの水槽を探しているようだ。
そんなに見たいのかと、つい笑ってしまった。
「そうだよな。けど、マンボーって書いてんだけど、どこだ?」
「おい、こっちじゃねぇか?」
視線の先にいかにもマンボーがいそうな水槽が立ちはだかったいた。
「あ?」
「やっぱあそこで終りってワケじゃなかったみてェだな。ほら」
「えっ、もしかしてあれがマンボーか?」
瞬間にパッと喜ぶ顔にかわり、わき目もふらずにそこへと歩いていき中を覗き込む。
やはり暗くて分かりにくいが、それを行っても仕方ないと目を凝らした。
「何だ、これ」
暗い水の中を泳いでいるものを目にしたが、いまいち何なのかが分かりにくい。
それが口に出てしまったんだろう。
「だからマンボーじゃねぇのか?」
少し自信はないが、マンボーの水槽がこちらにあると書いてあったということは、これがマンボーの可能性は大きいと思ったのだろう、啓介がまるで言葉を覚えたての子供のように、マンボーを繰り返していた。
「へえ、これがマンボーか。一回食ったことあるが、コリコリしてて中々いけるぜ」
「へっ?お前、マンボー食ったのかっ!?」
「ああ、社員旅行で行ったホテルの夕食に出たんだよ」
「これ、食ったのか〜?」
「うまかったって」
「って言われてもなぁ〜」
「ゲテモノ食ったような目で見るなっ!!ほら、閉館時間迫ってるから行くぞ」
不審そうな目で見つめ返してくる啓介を、急かすように先に進もうとしたが、まだ何かを言いたげな顔をしながら視線を水槽内へと向けると、
「可哀想〜…」
「…おい、誰に向かって言ってんだ……。ったく。…ん?えっおい、これマンボーじゃねぇぞっ」
「ああ?マジ?」
先を歩きながら水槽の横に回り込めば、そこにはよくある看板が立っていた。
よく読めばそこには……、
「ほら、アザラシって書いてある…」
「アザラシかよっ!?」
騙されたと思ったのか、啓介が水槽に八つ当たりのように言葉を投げつける。
「道理でおかしいと思った」
「何言ってんだ!?オレがマンボーって言ったら、お前も納得してたじゃねぇかよ」
「そういうお前だって知らないくせして、勝手なこと言ってんじゃねぇよ」
「うるせーな。オレのせいにするなっ!!時間ねぇんだろ?先行こうぜ」
本当にころころ変わる態度に、おかしくて笑ってしまう。
やはり、その辺の子供と変わらない。
「笑ってんじゃねぇよッ」
「だけどなぁ〜」
ちょっとこれは収まりそうにない。
周りを配慮してか、幾分抑えた笑いであったが、啓介は随分機嫌を悪くしていて―――、
「一生笑ってろっ!?」
中里を置き去りに、先へと歩いて行った。
「まてよ、啓介」
その後ろ姿を追いながら、笑いはいまだ収まらず。