街と夜空と啓介さんと
by 恭子


2

 ―――第一印象―――

 

土曜日。珍しくDの遠征がない、拓海にとっては貴重な休日に部屋でごろごろしていたところを、
ロータリーサウンドと共にやってきたFDに拉致られ、ここまで連れてこられた。
「たまには泊りがけでどっか行こうぜ」と啓介にせがまれ、持ち前の愛想のよさで文太に翌日の
配達免除まで取り付けられてしまったからには、断る理由もない。

Dの遠征はほとんど(車中泊とはいえ)泊まりがけだし、バトルの後は啓介とそのテのところで
配達に間に合う時間まで過ごしたりもしているのだが、それは彼にとっては「泊まり」にはカウント
されないらしい。

もっとも、このところ二人で会う時間がなかなかとれなかったのは事実なので、
啓介と一日一緒にいられるのは、拓海としてもうれしい。

だが。「泊りがけ」というからどこか温泉にでもいくのかとおもいきや、
高速を使ってつれて来られたのは週末の池袋。
まさかこんな人ごみに連れてこられるとはおもってもみなかった。

まっすぐに歩くこともできない雑踏。こういうところを歩きなれていない拓海にとっては
うまく人を避けながら歩くのは至難の業だ。すぐに向こうから歩いてきた大学生くらいの
男と肩がぶつかった。

「ってーな、おい!」

男が振り返って拓海の肩をつかもうとしたが、それより早く肩を抱きよせた啓介の
ひとにらみで、相手はちっと悪態をついただけで歩いていってしまった。
さっきもカラオケかなにかの勧誘チラシを何気なく受け取ろうとしたら、その手首をつかまれた。
どこかのカラオケ屋のはっぴを着た若い男の力は思いのほか強くて、そのままどこぞに
連れて行かれそうになったところをやはり啓介に助けられた。
ぼやぼやしてっからだ!と怒られたけれど、拓海は釈然としない。
だってこんなこと、地元じゃ絶対ありえない。

すっげーガラ悪い街・・・。

それがこの街の第一印象だった。

 

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