啓介を送り出した後。拓海の仕事はまず洗濯からはじまる。
寝室には男二人が寝ても余裕のキングサイズのベッドからシーツをひっぺがす。
その足元に丸まっているもう一枚のシーツは昨夜ドロドロになってとり代えた分だ。
こんな調子でほぼ毎日、2枚のシーツを洗濯しなければならないから大変だし、
子供がいるわけでもないのに毎日シーツを干しているなんて、はたから見れば
どんなお盛んな夫婦と思われているかといたたまれない心地がする。

なるべく考えないようにして、シーツを洗濯している間に布団を干して洗い物をすませ、
掃除にとりかかる。啓介がそこかしこに脱ぎ散らかした衣類や下着を拾い集めて
洗濯カゴに入れ、これまた啓介がそこかしこに置いた新聞や雑誌を片付ける。

「もーまたこんなところに!」

啓介の部屋に置き去りにされたグラスやいつのものだかわからない、中身が残っている
ビールの缶などを憤慨しつつも両手に持ち出す。啓介の部屋だからと最初は
手を入れるのをためらっていたものの、いくら本人に言っても無駄だし放っておくと虫がわく。
啓介自身、拓海が部屋を片付ける分にははまったく気にしないようなので、見かねたものだけ
片付けることにしている。涼介には「あまり甘やかすとためにならないぞ」とたしなめられたが。

二回目の洗濯物を干し終わる頃にはもうお昼だ。冷蔵庫の残り物を使って簡単な昼食を
作る。ひとりきりの食事は少し味気ない、とおもいながらぼそぼそと食べていると、拓海の携帯が
軽やかなメール着信音を奏でた。

『弁当うまかった。拓海はちゃんと食ってるか?』

啓介からの定期便だ。拓海もたどたどしい手つきながら返事を返す。

『食ってますよ。夕飯は何がいいですか?』

ややあって、メールが返ってきた。

『肉ならなんでも。5時になったらソッコー帰る』

終業時間が近づくにつれそわそわする啓介が目に見えるようだ。涼介に見つかってお小言を
もらわねばよいが。

『わかりました。お仕事がんばってくださいね』

 

メールでやりとりしつつ昼食を食べ終わると、午前中の家事の疲れと満腹感とで
眠気が襲ってくる。

(ああでも、買い物に行かなくちゃ・・・)

 

とりあえず昼寝する
先に買い物に行ってこよう