秋祭り
3
秋祭りが近くなり、夏以降変化した双子のよそよそしい様子に、周囲ももう何も言わなくなった頃。 いつものようにトォルを抱きしめて寝ていたエアは、夢を見た。 目の前で燃えている、赤いハート型の炎。 「エア」 振り向くと、夏の制服姿のジルが、優雅にお辞儀して手を差し伸べていた。 「お手をどうぞ」 最近では、エアが避けているせいで、触れることはおろか、呼びかけられることもほとんどなかった。 手をとろうか戸惑っていると、「大丈夫、これは夢だから」、とジルは笑った。 そういえば、ここは夏至祭の舞踏会場。 音楽は流れているのに、フェアリーサークルにも、その外にも、エアたちの他には誰もいない。 そうか、夢ならいいか。エアはそう自分に言い訳して、ひんやりとした手を取った。 優しく抱き寄せられて、慣れ親しんだリードで踊り始める。 まわる度に揺れるアクアマリンの髪。 耳元できらめき、シャラシャラと音を立てる、自分とおそろいのピアス。 抱き寄せられて密着する身体。しっかりと握られた手。 そして、自分を見つめる、ミントキャンディ色の瞳。 いつしか音楽はやんで、エアはジルにきつく、抱きしめられていた。 「エア。きみに触れられないのは寂しいよ」 「ジル…」 切なげに囁かれたら、今まで抑え込んできた感情が堰をきってあふれ出した。 エアは泣きながら、ジルの身体にしがみ付いた。 これは夢だから。朝起きたら、きっと全部忘れている。 そう言い聞かせ、激しい口づけに、自分から応えた。
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