秋祭り




「お辞儀をしたら、手を取って上げて」

差し出したエアの手を、ジルのひやりとした手が掴んだ。

触れた途端、びくっとしたが、ジルは掴んだ手を離さない。

固く握りしめた左手を導くように上げた。

「右手はここ」

今度は右手を掴んでジルの背中へとまわさせる。

しっかりホールドすると、思いの他、身体が密着した。

緊張して、手がみっともなく震えていることも、鼓動が激しく胸を叩いていることも、きっと丸わかりだろうに、

ジルはそれについては何も言わない。

「僕がゆっくり女性用のステップを踏むから、それに合わせて。右足から」

アン・ドゥ・トロワ…と拍子をとりながらゆっくりとステップを踏む。

エアがステップに慣れてくる度に、少しずつ速度を上げていく。

最初はガチガチに緊張していたが、そのうち徐々に速度が増していくステップについていくことで、

頭がいっぱいになりかけた頃。

「あっ」

引っ張られたエアがよろけた。

そのままジルの胸の中に倒れ込む。

「わ、悪い…ッ」

顔を真っ赤に染めながら、慌てて身体を離そうとしたが、抱きとめた腕はエアをはなさなかった。

「ジ…」

「ずっと、きみの心の悲鳴が聞こえていた」

目を見開くエアの耳元で、苦しげな声でジルは囁いた。

「傍にいてくれるニィルをうっかり凍らせてしまいそうになるほど、心も体も凍えそうだった」

「ジル…」

ジルはホールドを解き、エアのぬくもりを感じるように、両腕で抱きしめる。

「ニィルは僕の大事な恋人だけれど、きみは僕の半身だもの。きみを永遠に手放すなんて、考えられない。

きみだってそうだろう?」

忘れなければ、突き放さなければならないのに、ジルの身体のぬくもりはあまりに懐かしくて抗いがたくて。

「でも…トォルに悪い…」

目元を薔薇色に染め、夕暮れ色の瞳をそっと伏せたエアは、ぼそぼそと言い訳めいた言葉を返す。

だが、背中に回った手は、無意識にジルにしがみ付いていて、弱々しい言葉には何の説得力もなかった。

それでもなお、一度した決心を翻すのをためらって俯く弟のピンクの髪に、ジルは何度もくちづける。

「夢の中で、僕に泣きながらしがみついてきただろう?」

その言葉に、エアは驚いて顔を上げた。

何でジルが自分の夢のことを知っているのか。

だが、言葉を発する間もなく、唇は塞がれてしまった。

「んっ…」

思いの丈を注ぎ込むような、情熱的なキス。

唇を許してしまったら、もう気持ちを抑えることなどできなかった。

舌を奪い合うように、激しい口づけに懸命に答える。

息もつけないくらいに胸が苦しくなって、涙が頬を伝い落ちた。

「愛してるよ、エアリエル。愛なんて言葉では足りないくらい」

頬の涙を舐められ、大好きな声が愛を囁く。

泣き虫だな、と言われても、涙を止められなかった。

「…でも、あの二人には」

「僕たちは最初からこうだったし。わかってもらうしかないさ」

それに、僕たちを今夜二人にしたってことは、こうなることを許してくれたってことじゃないかな。

ジルはそう言うと、エアが飲みきれなかった唾液の跡を舐めとり、蜜に濡れた花びらのような形のよい唇をついばむと、

涙で顔に貼りついたピンク色の髪を、やさしく取ってやった。

「きみの泣き顔も大好きだけど、唇がすっかりしょっぱくなってしまっているよ、エアリエル。

キスは甘いほうがいいだろう?」