アムネジア

10




「愛と生命の復活」の効能がある、女神カクテルNo. 5、通称ふわもこ温泉のおかげで、

エアは花の国に着いたその晩に記憶を取り戻したが、ジルはすぐにフェアラルカに帰ろうとは言わなかった。

温泉で湯あたりするまで睦みあった後、用意された部屋のベッドでもつれあいながら眠りに落ち、

朝遅くに目覚めて、バラジャム入りのローズティをベッドの中で楽しんだ後は、

明るい陽の光が差し込むシーツに埋もれて、再び想いを確かめ合った。

エアが先に空腹に耐えかねて、眠そうな顔で昼食を取り、デザートの七色のミルフィーユを、

子供の頃のようにジルに食べさせてもらった後は、恋人のように手を繋いで、庭園や森の中を散歩した。

常春の国の浮かれた空気は、二人の心をも浮き立たせて、二人は何度も立ち止まっては抱き合い、

口づけを交わし、あるいは花の茂みに隠れたやわらかい草の褥で、飽くことなく睦みあった。

そしてきめこまかい泡と甘い匂いがくせになるふわもこ温泉にも再びやってきた。

夜中に来た時には入ることを躊躇していたエアも、昼間の今では自分から入りたがった。

生まれたままの姿で、互いに泡を擦りつけ合い、

そのうちに反応し始めた互いのものを、口に含んで慰め合っていると、

「やあ、どうやらすっかり元に戻ったようだな、エアリエル」

ミントの茂みの向こうから、花の国の王子フルールと、その従者ミントショコラが、

やはり生まれたままの姿で現れた。

「フルールお前、何でここにいんだよ」

兄の腰に抱きついたまま、エアはむっとした顔でたずねた。

「ここは私の国だ。帰ってきて何が悪い。

ノームたちも来たがっていたが、今回ばかりは兄弟水入らずにしてやれと気を利かせてやったのだ。

むしろ感謝してもらいたいものだな」

「万が一、女神カクテルNo. 5が効かなかったら別の方法はあるのかと、

フルール様も心配されておられましたので、本当にようございました」

ミント、余計なことを言うな、と叱るフルールに、申し訳ありません、とミントが頭を下げる。

「そりゃありがとよ…けど、どうしてお前たちまで入ってくるんだ」

ジルの腰に抱きついたまま、エアは半眼になって尋ねる。

二人きりでいるところを邪魔するなと精一杯態度で示したつもりだったが、フルールはどこ吹く風だ。

「せっかくだから、私たちも真実の愛を確かめようと思ってな。お互い子供の頃から知る仲だ。

今さら愛し合うところを見せっこするくらい、どうということもあるまい」

「冗談っ…んんっ…」

断固拒否しようとしたが、エアは頭に添えられた手で強引に正面を向かされ、猛ったものを咥えさせられた。

脈打つそれを頬張ったまま、目を白黒させて見上げるエアに、ジルは涼しげな笑みを浮かべた。

「フルールの言うとおりだ、エア。今さら見られて困ることなんか、何もないだろう?」

いやある、っていうか、おかしいだろそれ!

抗議したいのはやまやまだったが、口いっぱいに昂ぶりを咥えさせられ、

集中しろとばかりに抜き差しされては、逆らうことなどできなかった。

「ほらミント、我々も」

「フルール様…」

ミントのかぼそい喘ぎ声を聞きながら、エアも獣の姿勢でジルを受け入れ、さんざん甘い声を上げさせられた。