アムネジア




エアに忘れ薬を飲ませるタイミングは明日か明後日の夜、と最初は言っていたが、

宝探しを戻ってきても双子の姿がなく、深夜近くになって手を繋いで戻ってきた二人を見て、

ニィルは今夜決行することを決意した。

「今夜は冷えるから。あったかいものを飲んでから寝たいな」

僕、用意してくるから。みんなで飲もう?

ニィルの怖い笑顔に、誰も逆らえなかった。

ニィルとエアにはミルクココア。ジルには紅茶。トォルには梅昆布茶だ。

トォルはエアがミルクココアをおいしそうに飲むのを、どきどきしながら見ていた。

あの薬は小瓶に少ししか入っていなかったし、ココアに混ぜれば味はしないとおもうが、

エアが何か言い出さないか不安だった。

トォルの視線に気づいたエアが、

「ん?お前もココア飲みたいのか?」

これ飲むか?などと聞いてきて、どきりとしたが、

「じょ、冗談っ。よくそんな甘ったるいもん飲めるなと思っただけだっ」

といって、ごまかした。

部屋に戻って寝たのは、日付がかわってからだった。

エアはジルにお休みのキスをしてから、トォルと部屋に戻った。

気温が低いせいか、いつもより心持ち体温が低く感じるエアは、疲れていたのか、

トォルを抱きしめながら眠りについた。

(つらい恋を忘れる薬かあ)

ジルはつらい恋だなんて思っていないだろうから、この薬は使えない、とニィルは言った。

じゃあエアはどうなんだろう。ジルとのことは、つらい恋だとおもっているのだろうか。

薄い絹のトランクス一枚で眠るエアの肌には、ところどころに花びらのような痕がある。

トォルは鼻の奥がツンとして、泣きたい気持ちになった。

もしエアが、自分のことだけみてくれたら、自分は本当にうれしいだろうか。

薬が効いてほしいような、効いてほしくないような、複雑な気分だった。