アムネジア
4
「悪いけど、俺、あんたのこと知らねーし…」 手を振り払った非礼を詫びつつも、エアは不愛想にそう言った。 この炎のシルフは、人見知りなのか、もともと他人には愛想がない。 だが、ジルに対してこんな態度を取ったことは、これまでの人生に一度もなかったに違いない。 普段は笑顔を絶やさないジルも、この時ばかりは、さすがにショックを隠せないようだった。 室内の温度が急に下がり、トォルとニィルが身震いする。 「そうか…じゃあ、きみのことはトォルに頼もう。ちゃんと医務室に行って、先生に診てもらうんだよ」 「ああ」 今度は素直にうなずいたのを見て、ジルは出て行った。ニィルがはっと彼の方を見たが、 とてもついていける雰囲気ではなかった。 「どうしよう。ジルに嫌われちゃった…」 「それよりこいつを何とかしなきゃ」 歩いて医務室まで行けそうか?それとも先生呼んでこようか?とたずねるトォルに、 エアはお前がお姫様抱っこで連れて行けよと、無茶な要求をしていた。
医務室に行ったが、ジルに関しての記憶のこと以外では、特に問題はないとのことだった。 その日の夕方、食堂に4人が集まって夕食を食べた。 ジルに部屋替えを持ちかけられた時、エアは露骨に嫌な顔をした。 「嫌だね。俺、トォルと離れたくねぇもん」 「エアッ…」 トォルは感動して、エアの顔を見つめる。 すげない拒絶に、ジルは困ったような笑みを浮かべた。 「どういうわけか、今朝から力の制御ができなくてね。 気をつけていないと周りを氷だらけにしてしまうんだ。 眠っているうちにうっかりニィルを凍らせるわけにもいかないし、 炎属性のきみが同じ部屋にいてくれれば、この寮全体を氷漬けにしないですむんだけど」 申し訳なさそうにお願いされれば、根はやさしいエアのことだ。 じゃあ少しの間だけならかわってやる、とうなずいた。 ニィルは悲しそうな顔でジルを見つめていたが、半ば凍りかけた部屋のことを思えば、何も言えなかった。
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