アムネジア




自分の兄だと言う彼は、何かを思い出しかけた途端に襲ってきた頭痛がおさまるまで、

ずっと抱きしめていてくれた。

ひんやりした彼の肌は、常に火照っている自分の肌には心地よくて、いつまでもこうしていたくなるような、

不思議な懐かしさを感じさせた。



優しく髪を梳かれているうちに、いつしか眠ってしまったらしい。

「ん…」

自分の身体の熱を吸い取ってくれる心地よい身体の間に潜り込むように、脚を絡め、

胸に顔を埋めるようにして背中にしがみ付くと、背中に流れる髪を、優しい手つきで撫でられた。

髪を撫でられるのは大好きだ。もっとしてほしくて、背中を丸めると、顔にかかっている髪をかきあげられた。

頬に暖かい唇が触れる。続いて頬に、まぶたに。くすぐったかったが、嫌ではなかった。

耳をかじられた時は、おもわず甘い声を上げてしまった。

鼻に、唇の端にキスされ、そしてそっと押し当てるように唇へ。

乞うように何度も啄まれ、唇を開くと、熱い舌が侵入してきた。

「ふ…っ」

舌の根本をなぶられ、背筋が震えた。気持ちいいけれど欲望をかきたてるような口づけに、

それまで半ば眠っていたエアの意識は浮上した。

今、俺は誰とキスしているんだ?

目を開けると、ミントキャンディ色の瞳が、エアを見つめていた。

「おはよう、エア」

夕暮れ色の瞳が、これ以上ないくらいに大きく見開かれた。




「うわああっ!」

ドスン!

隣からものすごい音と振動が聞こえてきて、トォルとニィルはベッドから飛び起きた。

「どうしたんだ!?」

ノックをする余裕もなく隣の部屋に飛び込んだ、二人のノームが見たものは、

素っ裸で床に尻もちをついているエアと、ベッドの上でやはり裸で、

後頭部を痛そうに押さえているジルの姿だった。

「ひどいな、エア。突き飛ばすなんて」

頭をさすりながらジルが穏やかな声で責める。

トォル達にとっては、それぞれ自分たちの恋人である二人が裸で対峙しているという、ショッキングな光景だが、

実はもういいかげん見慣れていたりもした。

この双子が中等部の時にはずっと、いやそれどころか自分たちと付き合い始めてからでも同じ部屋に泊めると、

裸で抱き合って寝ていることは知っていたから。

「エア、もしかして記憶戻ったの!?」

しかしエアは、前を隠すのも忘れて、まるで幽霊でも見たような表情でジルを凝視している。

「つーか、何でおれ、こいつと一緒に寝てんだ?」

途端にジルの表情が悲しげに曇り、エアの胸がズキッと痛んだ。

「あ…悪い、ジル」

そういえば、話をしている途中で頭が痛くなって、そのまま寝てしまったのだと思い出す。

自分が突き飛ばしたせいで壁にぶつけた頭を心配すると、

「僕は大丈夫だよ。きみの方こそ、腰、痛めなかった?」

と、そつのない笑顔でたずねてきた。