おしおきジル編その1
序2
サボるつもりはまったくなかったのだが、睡魔に襲われて眠りの塔の螺旋階段で眠りこけていたエアとトォルは、 野外授業が終わった後で、ルゲイエ先生と一緒に塔に戻ってきたジルに起こされた。 いつになく冷ややかな声と表情に、二人に絡みついていた眠気は、一気に逃げて行った。 「トォル、ニィルが心配していたよ。部屋に帰りなさい。 エア、きみは僕の用事が済むまでここで待っているように」 トォルが脱兎のごとく森に逃げて行くのを見て、残されたエアは慌てた。 「ちょっ…何で俺だけ!」 「エアリエル」 静かな声で本名を呼ばれて、エアはびくっとして固まった。 決して声を荒げるわけではないが、明らかに怒っているとわかる、兄の声。 「すぐに戻ってくるから、必ず待っていること。いいね」 有無を言わさぬ口調に、エアはこくこくと頷くことしかできなかった。
二つの礼拝堂の間にある、地下の秘密の小部屋、ラ・シャンブル・ルージュ。 シャンデリアから絨毯からソファまで何もかもが紅い小部屋に入ると、ジルは内側から鍵をかけた。 先に入ったエアは、ソファには座らず緊張した面持ちで、ジルの出かたを待っている。 「なぜ僕が怒っているか、わかるかい?」 エアは上目づかいにミントキャンディ色の瞳を見た。 「野外授業に来なかったからだろ?さぼる気はなかったんだぜ?」 ぼそぼそと弁明すると、ジルはため息をついた。 「もちろんそれもあるけど。僕を心配して来てしまったニィルはともかく、 きみやトォルまで星見の塔まで来る必要はなかっただろう? トォルのことはきみの監督不行届だよ、エア。 しかもきみは中等部からルゲイエ先生の授業を受けているくせに、一緒に眠ってしまうなんてね」 「う…悪かったよ」 確かに自分でも情けないと思っているので、素直に謝る。俯くエアの細い顎を、 美しい形の指が捉えて上向かせた。 「本当に悪いと思ってる?」 「ああ」 至近距離で見つめられ、おまけにその口調が、責めるものから、もっと艶を帯びたものに変わって、 エアの心臓が跳ね上がった。 ただし、口元に刻まれた微笑にいつもの甘さはなく、エアを見つめる瞳は、 サディスティックな冷たさを帯びている。 ひやりとした指が、エアの輪郭をなぞった。 「きみは身体に教えないと、すぐに同じことをするから」 ジルはそう言いながら、愛撫というよりは獲物をなぶるように弟に触れていた指を離すと、 「脱ぎなさい」 と静かに命令したのだった。
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