秋祭り






綺麗な満月の夜。

薬鴆堂に着くなり、鴆に祭りを見に行かないかと誘われた。

それまで二人で出かけるといえば、山で花見や薬草摘みに行ったり、蛇ニョロに乗って空から月見をするくらいだった。

てっきり人ごみが嫌いなのかと思っていたから、鴆からのその誘いは意外だったが、もちろん断る理由もなかった。



そこは薬師一派のシマから少し外れた、山中の神社の祭りだった。

患者の一人に、薬市が立つ祭りがあると聞いて、のぞいてみたくなったのだという。

小規模ながらも参道には露店が立ち並び、闇を明るく照らしている。

蛇ニョロを降りる時から繋がれた手は、鳥居をくぐってもそのままだった。

目で問えば、「はぐれたら困るだろ」と苦笑された。

明らかにただの口実だったけれど、人ごみの中で手を繋いで歩くのは、悪い気分ではなかった。

こんな山奥の祭りにしてはけっこう人がいる、とおもいきや、的屋も客も、ほとんどは人に化けた妖怪だった。

中には人型すらとっていない妖怪も見え隠れしている。

「欲しいもんがあったら買ってやるよ」

甘やかすように言われて、じゃああれ、と指さしたのは、

大きな鉄板の上で食欲をそそる匂いと音を立てている焼きそばだった。

リクオが熱々の焼きそばを食べている間、鴆は生薬や薬草などを並べている店を覗いて回り、商人に質問していた。

買ったものを袂に入れながら振り返った鴆は、こちらを見て苦笑した。

「青のりついてるぞ」

親指の腹でぐいと口元をぬぐい、ぱくりとその指を咥えた。

それからまた手を繋いで歩き出す。

「鴆、次あれ食いたい」

「あんた、よく食えるなあ」

甘い匂いを漂わせているチョコバナナの群れを指さすと、夕飯食ってきたんだろ?と鴆は呆れたように言った。




階段を登り切り、屋台が切れて祠が見えるところまで来たとき、リクオは立ち止った。

「リクオ?」

リクオと並んで歩いていた鴆も立ち止まる。

振り返ると、そこには今まで通ってきた露店の群れが、無数の赤提灯に彩られてにぎわっている。

だが、鴆を引っ張って戻ろうとすれば、提灯の明かりはなぜか遠ざかっていった。

「やっちまったな」




妙なところに足を踏み入れてしまったと、リクオは苦々しく呟いた。





書いてみたかった秋祭りねたです。

 

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