秋祭り 2 「いわゆる神隠しってやつか?悪いな、変なことに巻き込んじまって」 ただ祭りを見に来ただけなんだがなあ、と鴆は困ったように頭をかいた。 「いや、むしろ一緒でよかった。 おめー一人で来てたら、戻ってこれねえかもしれねえだろ」 オレから離れるなよ、と繋いだ手に力を込めたら、身体ごと引き寄せられた。 精悍な印象ばかりが目立つが、近くで見ると端正な顔が近づき、口の端、それから唇を舐めた。 ぴちゃり、という音が静寂の中に響く。 「おい、こんなことしてる場合じゃ」 「頼もしいけどな、口にちょこれーとつけてちゃ、しまらないぜ」 鴆は小さく笑って、思わず尖らせた唇をついばんだ。
後戻りはできないので、祠に向かった。 何の変哲もない、無人の祠だ。定期的に誰かが掃除しているのか、古いながら綺麗だったが、そこには土地神もいない。 祠の周りを一周すると、鳥居の向こうの参道からは、屋台や提灯の明かりすら消えていた。 やけに暗いと思ったら、先刻まで煌々と夜空を照らしていたはずの月がなかった。 (置行堀やとおりゃんせと同じか) その領域に踏み入ったら、無条件でルールに従わなければならない。 ならば、この場を支配する妖怪がいるはずだ。
知チリリン。
遠くで鈴の音がした。 祢々切丸の柄に手をかけるリクオに、おいあそこ、と鴆が指を差す。 ほんの一瞬、赤い着物の端のようなものが、祠の裏に隠れるのが見えた。
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