秋祭り

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「いわゆる神隠しってやつか?悪いな、変なことに巻き込んじまって」

ただ祭りを見に来ただけなんだがなあ、と鴆は困ったように頭をかいた。

「いや、むしろ一緒でよかった。

おめー一人で来てたら、戻ってこれねえかもしれねえだろ」

オレから離れるなよ、と繋いだ手に力を込めたら、身体ごと引き寄せられた。

精悍な印象ばかりが目立つが、近くで見ると端正な顔が近づき、口の端、それから唇を舐めた。

ぴちゃり、という音が静寂の中に響く。

「おい、こんなことしてる場合じゃ」

「頼もしいけどな、口にちょこれーとつけてちゃ、しまらないぜ」

鴆は小さく笑って、思わず尖らせた唇をついばんだ。




後戻りはできないので、祠に向かった。

何の変哲もない、無人の祠だ。定期的に誰かが掃除しているのか、古いながら綺麗だったが、そこには土地神もいない。

祠の周りを一周すると、鳥居の向こうの参道からは、屋台や提灯の明かりすら消えていた。

やけに暗いと思ったら、先刻まで煌々と夜空を照らしていたはずの月がなかった。

(置行堀やとおりゃんせと同じか)

その領域に踏み入ったら、無条件でルールに従わなければならない。

ならば、この場を支配する妖怪がいるはずだ。



チリリン。



遠くで鈴の音がした。 

祢々切丸の柄に手をかけるリクオに、おいあそこ、と鴆が指を差す。

ほんの一瞬、赤い着物の端のようなものが、祠の裏に隠れるのが見えた。








お祭りで手を繋ぐ二人を書いてみたかっただけなんですが、
もうちょっと書いてみようかと思いました。
また脱線してしまう…。


   3

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