霹靂神(ハタタガミ)


1




闇を切り裂く閃光とほぼ同時に、大地をも揺るがすような轟音が屋敷中に響いた。


「うわーん!」

こわいよー!と泣きながら鴆にしがみついているのは、まだ三歳になったばかりの本家の若君である。
胸元が涙と鼻水でじっとりと濡れていくのを感じながら、鴆少年は困り果てていた。
幼少のころから薬の知識を叩きこまれ、まだ修行中とはいえ、すでに簡単な薬の処方ならできる身ではあるが、泣きわめく子供のあやし方までは教わっていない。

今、自分にしがみついているこの子供は、母親の元を離れてここ薬鴆堂に来てしまったことを、さぞかし後悔しているに違いない。




この、まだよちよち歩きの子供がなぜ男所帯のこの屋敷にいるのかといえば、父親の名代で本家を訪れた鴆に、彼がすっかりなついてしまったからである。
帰る頃になると、「ぼく、ぜんくんといっしょにいる!」としがみついて離れなくなった。
泊まっていくように勧められたが、父は床に伏している。いつものことだとはいえ、そんな時に外泊することにはためらいがあった。
てっきり説得して引き離してくれるとおもっていた子供の母親は、

「じゃあ、今夜は鴆君のおうちにお泊まりする?」

などと子供に聞き、顔を輝かせた彼が、

「うん!」

と元気いっぱいに返事をしたところで話は決まってしまった。
鴆の意思などまったくおかまいなしに。

「鴆君、悪いけどリクオをお願いね」

しかも母親は同行せず、完全に子守を押しつけられてしまった。




こんもりとした山の中にひっそりと建つ薬鴆堂は、都会っ子のリクオには新鮮だったらしく、最初は上機嫌で屋敷を「探検」していた。だが疲れて昼寝をしている間に雲行きがあやしくなり、轟く雷の音にびっくりして目を覚ましたというわけである。



「おまえは総大将の、鯉伴様の子だろうが。雷くらいでびびんな」

震える背中をさすりながら、鴆は言った。
父親の名前を出されて、リクオは泣きやんだが、稲妻が走り、雷鳴が響くたびにビクッと小さな身体を震わせる。
やはり怖いものは怖いらしい。

鴆はリクオを抱いたまま、このちいさな客人が昼寝をしていた布団に横になると、その茶色の頭にリクオと自分の羽織を重ねて、すっぽりと被せかけた。

「大丈夫だリクオ。怖けりゃ目ェつぶってな」

オレがおまえを守ってやるから。

羽織に包まれ、鴆に抱き締められて、リクオはやっと眠りについた。
泣き疲れたのが先だったか、それとも雷鳴が遠ざかったのが先だったか。
リクオを抱いたまま、いつのまにか自分も寝てしまった鴆にはわからなかった。






2


最後まで書きたかったんですが、
目がしょぼしょぼしてきたんで今夜はこれで!

既出ねたかもしれないですが(いやこの話に限らず…)、
若のあの男前な台詞は、鴆の刷り込みだったらかわいいなという妄想です。
夜も昼も臆病ではないので、むしろ雷を喜んでいたかもしれませんが…(^_^;)



孫部屋