霹靂神(ハタタガミ)


2




ひと際大きな雷が、稲妻の直後に山のどこかに落ちた。




時折光る稲妻だけが室内を照らす中で、二人きり。
こんな夜が以前にもあったと思い出しながら、

「怖けりゃ抱きしめていてやるぜ?」

と傍らで盃を傾ける恋人の肩を抱けば、

「ハッ、雷が怖くて妖怪の主が務まるかよ」

何とも可愛げのない言葉がかえってきた。

それともお前が抱きしめて欲しいのか?とさらに可愛くない言葉を紡ぐ口を黙らせようと、酒に濡れた形の良い唇を塞いだ。

「ん…」

上等な酒にひたされた舌は、くせになる甘さを増して、酩酊感を引き起こす。
重ねた唇の間から漏れる秘めやかな水音は、ひっきりなしに響く雷鳴にかき消された。
潤いのある口腔を時間をかけて味わい、ねっとりとまさぐっていると、いつのまにか盃を転がした手が、すがるように鴆の長着の背をつかんだ。

「抱いて欲しくなったか?」

チュッと小さな音を立て、わずかに唇を離して問えば、年下の主(あるじ)は目元を赤く染め、潤んだ瞳で鴆を睨んだ。

「馬鹿」

その言葉とは裏腹に、熱を孕んだ金色の目が、薄く開いた唇が、鴆を欲しいと言っていた。
着流しに包まれた白い身体は、きっと鴆と同じに、いつもより熱く、鼓動が高なっている。

「別におかしなことじゃねぇ。こういう日は身体が勝手にたかぶるのさ」

雄の生存本能ってやつだな。

鴆はリクオの肩にかかっていた羽織を外し、皺にならないように脇に置いた。

「もっとオレを欲しがれよ、リクオ」

唆すようにそういうと、愛しい身体を強く引き寄せた。






おわり


たいしたことない長さで切ってすいません;



孫部屋