緋襦袢で四十八手
10. こたつ隠れ(こたつがくれ) 後
こたつの中で突然足首を掴まれて、リクオの心臓は跳ねあがった。 つい先刻までみかんの筋を取っていたはずの鴆は、今は明るい緑色の瞳でまっすぐにリクオを見つめている。 鴆は獲物を見るような目でリクオを見ながら、捉えた足から足袋を脱がせ、足の甲に口づけた。 「やめろよ…汚ねえだろ…」 足袋を履いていた足なんかに口をつけるなと、足を引こうとしたが、大きな手は足首を掴んで離さない。 「あんたの身体に汚ねえところなんかねえよ」 鴆はそう言って、リクオをじっと見据えたまま親指を口に含み、軽く吸った。 指の間に舌を這わされると、その湿った柔らかい感触にぞくりと背筋が震えた。 「や、めろって…」 ことさら音を立てながら舌を使う鴆の目を正視できずに、リクオはそらした目の端を赤く染めて小さく抗議する。 だが力のない制止の声にこの男が耳を傾けるはずもなく、 小指に軽く歯を立てたりしながら、足を捕らえていない方の手で裾を割った。 不埒な手は緊張して張り詰める、鍛え抜かれた筋肉を確かめるように這いまわり、 それから無防備な内腿へ進み、吸いつく肌の感触を味わうように撫でた。 「…ッ」 気まぐれに足の付け根に触れられて、リクオはぎゅっと目を閉じた。 嫌なら振りはらえばいい。 わかってはいるが、足を引っ張られて後ろ手をついた体勢から、どうにも動けない。 快楽に慣らされた身体はすでに、この男の愛撫を期待してしまっていた。 「あっ…」 リクオの制止がないのをいいことに、骨ばった手はとうとうリクオの下帯に触れ、 手触りのいい絹布(けんぷ)の上からしばらく揉んだ後、 それを解いて、直に触った。 「すげー濡れてる」 「…ッ」 鴆の言葉に、全身がかっと熱くなった。 見えない手に扱かれて、ぬるぬるになっている自分がすごくいやらしく思えた。 「はっ…あっ…」 こんな場所でも、感じてしまう自分を止められない。 行為を中断して閨までなんて、とても待てなかった。 「鴆…ッ」 ここで欲しいと、潤んだ目で鴆に訴える。 鴆はリクオの意を汲むと、伸ばした指で秘所に触れた。 「あ…んっ」 潤滑剤をつけていたらしい。ひやりとした感触に、リクオの身体が跳ねた。 だけど官能で火照った身体はそんな冷たさなどすぐに溶かしてしまい、 むしろその感触を愉しむように、リクオの腰は無意識に揺れ始めた。 「あっ…あんっ…」 指が奥まで届かないことをもどかしく思いながら、リクオの下の口は貪欲に鴆の指を飲みこみ、奥に誘い込むように締めつける。 しかしすぐに物足りなくなって、困惑したように鴆を見た。 「欲しいのか?」 鴆の問いに、コクリと頷くと、鴆の身体がこたつに潜り込み、見えないところで二人は繋がった。 「あ…ぁあん…」 鴆の先端が潜り込んでくる。 けれどやはり奥までは入らずに、入口近くで抽挿をはじめた。 「あっ…あんっ…あんっ」 がたがたと炬燵を揺らしているうちに籠のみかんがこぼれ、畳に散らばった。 やっと望んでいたものを与えられたけれど、物足りない。 もっと奥まで鴆を得ようと、リクオもこたつの中に身体を潜らせるが、 狭い空間の中で、どうしても動きが制限されてしまう。 ひどくもどかしかったが、身体はいつも以上に感じていた。 こんな場所で繋がっているという背徳感が、見えない場所から聞こえる秘めやかな水音が、リクオの官能をより高めていた。 「あんっ…あんっ…もっと…奥…ッ」 「リクオ…ッ」 自分がどんな顔で悦んでいるのかも知らず、リクオはただひたすら腰を動かし、貪欲に鴆を締めつけた。 |
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