緋襦袢で四十八手
13. 抱き地蔵(だきじぞう)
赤い襦袢に着替えて腰紐を締めると背後から、来いよ、と声をかけられた。 鴆は羽織一枚脱がずに、部屋の柱に背を預け、足を投げ出して座っている。 今夜は一体何をされるのかという不安と、ほんの少しの期待で、この瞬間はいつも落ち着かない。 所在無げに前に立つリクオの腕を、鴆はその細腕からは信じられない強い力で引いて、 膝の上にまたがるように座らせた。 腕を引いた手は、こわばった身体を優しく抱き寄せ、なだめるように背中を撫でた。 こつりとかるく額をぶつけられ、思わず薄く開いた唇を塞がれる。 「んっ…」 唇をなめられ、舌はあっという間に口の中に侵入した。 歯列をなぞられ、口蓋をなめられると、背筋にぞくりと震えが走って、下腹に熱が溜まる。 舌の根本から唾液をこそぎ取るようにしごかれると、腰から下の感覚がなくなっていくような気がした。 「この体勢でやんのか…?」 たまらなくなって口づけの合間に聞けば、リクオの不安をわかっているのか、 鴆はああ、と短く答えて、不安を和らげるように優しく啄む。 そうと悟って、リクオの肩からやっと力が抜けた。
とろけるような口づけを繰り返している間に、衣擦れの音と共に、はだけた裾の間から大きな手が忍び込んだ。 乾いた大きな手はみずみずしい肌を味わうように、腿を、ふくらはぎを、そして小さくしまった臀部をはい回った。 赤い襦袢の裾がはだけて、光り輝く白い肌があらわになる。 内腿を撫でまわし、臀部を揉んだ不埒な手は、谷間に食い込む下帯にかかり、それを緩めた。 すでに半勃ちになっている雄に骨ばった指を絡めると、口づけに夢中になっていた身体がはじめてびくりと震えた。 おそらく下帯を解かれたことにも気付いてなかったのだろう。 驚愕し、怯えたような舌をなだめるように愛撫しながら、手の中に収めたものをゆるゆると扱き始めた。 すると若い雄はあっという間に熱く脈打って硬くなり、リクオは苦しげに口づけを解いて、鴆にしがみついた。 快楽に正直な分身は、先端からとめどなく透明なしずくをこぼして、鴆の手をぬらした。 鴆はあらわになった白いうなじに唇を寄せながら、あいている手に薬液をつけた。 うるおいにぬめる指で双丘の谷間を辿り、奥の入り口の周りをなぞった。 「あっ…」 ひやりとした感触に、リクオの背が震えた。 なだめるように分身を扱き、再び身体の力が抜けたところで、薬液にぬれた手をつぷりと差し入れた。 「ぁっ…ん…」 つつましやかな入り口は最初こそ怯えていたものの、浅くゆっくりと抜き差しする動きに、教えられた快楽を思い出した。 内部が骨ばった細い指を歓迎するように締め付けるようになると、指の動きはもっと大胆に奥までもぐりこんだ。 「あっ…あっ…」 秘めやかな水音と共に奥を探られる快感に、リクオは鴆の肩口に額をこすりつけた。 「あっ…ん!」 奥のしこりを押すと、しなやかな身体はびくりと跳ねた。 「ぜん…もう…」 このままでは達ってしまうと、リクオは涙をためた目で鴆を見上げる。 鴆は己の着物をくつろげると、いきり立ったものを取り出し、指を引き抜く代わりに、リクオを肉棒の上に座らせた。 「あっ…あぁぁん…っ」 鴆に腰を支えられ、赤い襦袢をまといつかせたリクオの中に、鴆の昂ぶりが埋まっていく。 再び腰を押し付けると、リクオは熱をこらえるように鴆にしがみついた。 つながったところから、お互いの熱と脈動を感じる。 二人は抱き合ったまま、ゆっくりと動き始めた。 とはいっても、リクオを抱えて座っている鴆はそれほど動けない。 リクオは鴆の視線を避けるように目を伏せながら、鴆の動きに合わせて自分から動き始めた。 自分の昂ぶりを鴆の腹に擦り付けるように腰を回し、内部の鴆を扱くように締め付ける。 恥らいながらもみだらに腰を動かすリクオの表情が、 はだけた襦袢からのぞく白い脚が、 鴆の欲望をさらに熱く脈打たせた。 「あぁんっ」 骨の浮き出た腰をつかみ、下から強く突き上げると、リクオは感じ入った嬌声を上げた。 腰をぶつけ合うように結合部を擦り付けていると、快楽に濡れた、だけどどこか切なげな目と目が合った。 自分も今、リクオと同じ目で彼を見つめているのかもしれない。 想う相手と情を交わせて、これほどまでに幸せなのに、 いとおしいと思う気持ちは、なぜか胸を痛いほどに締め付ける。 涙をためた目で鴆を見つめながら、甘い息を吐くリクオをどうしていいかわからず、 鴆はしなやかな腰を抱いたまま、その形のよい唇に言葉にならない想いをこめて口づけた。 |
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