くりすます
2 そして十二月二十四日の夜。 ケーキを持ってくるから一緒に食べようと言われて、日が暮れてからはいつ来てもいいようにしていたのだが、 リクオは一向に現れない。携帯にも連絡はなく、さては何かあったのかと、やきもきしながら待っていると。 日付が変わる頃、障子が勢いよく開いた。 「待たせたな鴆!メリークリスマス!ひゃっほー!」 小気味のよい音と共に、待ち人がつむじ風のように現れた。 開け放たれた障子から、大量の冷気が流れ込んでくる。 いつもの黒の長着に、黒の混じった銀の髪を滝のように背中に流し、そして頭には、白いふちのついた赤い帽子をかぶっている。 鴆は呆然と、障子を開け放し万歳のポーズで静止したリクオと、しばしの間、見つめ合った。 「…とりあえず、障子を閉めてくれないか」 「あ、わりーわりー」 リクオは暖かい空気が逃げ切った部屋の障子を閉めると、鴆の前にどかりとあぐらをかいて座り、 リクオの声に組員がすぐに持ってきた盃を受け取って、鴆に差し出した。 鴆も酒器を受け取り、とりあえず冷酒で、リクオに酌をする。 「出入りだったのか。怪我はねえか」 「ああ。数が多かったんで、まとめて燃やしてきた」 さらりと物騒なことを言っているうちに、肴と熱燗が来た。 「ところでリクオ。その帽子」 その帽子はこの時期に街に出るとあちこちで見かけるし、化け猫屋の娘たちもかぶっているから、 くりすますの伝統的な格好だということはわかるのだが、黒の着流しにその帽子はまったく似合わなかった。 だがリクオはそんなことは毛ほども気にしていないらしい。 「ああこれはリボンの代わりだ。クリスマスプレゼントはオ・レ☆ってことで。 おめー欲しがってただろ?遠慮なく受け取れよ」 ウィンクを飛ばされ、鴆はくらりとした。 確かに、めったに見られないこの姿のリクオをもう一度見てみたいとは思ったけれど、 いざ目の当たりにすると、やっぱり扱いづれえ…と鴆は思った。
|
||