お花見 2
「うっ…」 頭が割れるように痛かった。 とても寝てはいられなくて目を開けると、視界がぐるぐる回っていて、すぐに目を閉じてしまった。 胃をひっくり返したようなむかつきもひどい。 こんなひどい二日酔いは初めてだ、と眉を寄せていると、唇に暖かいものが触れた。 ぬるりと唇をこじ開けられ、喉に暖かい液体を流し込まれる。 「…ッ!」 どろりとしたそれはものすごく苦くて、苦悶の表情を浮かべて顔を背けようとしたが、骨ばった指ががっちりと顎を捉えて離さなかった。 吐き出すことも許されず、強引に嚥下させられて、あまりの苦さに涙がこぼれた。 それを二回も繰り返されて、もはや抵抗する気力もなくなりぐったりとしていると、 苦い、おそらく薬湯を飲ませた舌は、リクオの舌に絡み、口腔を這い回り始めた。 ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて唇を吸われ、中では生暖かい舌が柔らかい粘膜をなぞっている。 最初は口の中も這いまわる舌も苦くてたまらなかったが、執拗に舐めまわされているうちに薄れてきた。 おまけに唾液のようなものを流し込まれて飲まされて、自分以外の舌が与える優しく強引な愛撫を いつしか気持ちいいとさえ感じていた。 …舌? これってひょっとして、キス、なのか? リクオはぱちりと目を開けた。 視界はもう回らなかったが、暗くて近すぎてよくわからない。 そういえば宴会の時、女にキスされた鴆にめちゃめちゃ腹が立って。 自分もやってやる、と近くにいた女を引き寄せてキスしたはずだったが、誰としたのかは全然覚えていない。 じゃあ今キスしている相手がその女だろうか。 なりゆきで申し訳ないが、してしまった以上責任はとる。 そんなことをぼんやりと考えていると、舌の根本をざらりとした舌先で舐めあげられた。 「う…んっ」 くぐもった甘ったるい声が、自分の喉から漏れて、リクオはぎょっとした。 いくら初めてだからって、自分が女に喘がされてどうする。 それにしてもずいぶん積極的だなと、覆いかぶさる身体を押し戻そうとしたが、なぜか身体が動かない。 頭痛が消えた代わりに、手首や腕、両脚のつけ根がやけに痛い。 何かおかしいと気づいたとき、長いキスを仕掛けていた相手がようやく唇を離した。 ちゅ、と小さな音を立てて離れた唇からは、透明な糸が伝って消えた。 その顔を見て、リクオは目をみはった。 長々と執拗な口づけをしていた相手はつららでも凜子でもなく。 「ようやくお目覚めかい、お姫様」 今、一番憎たらしく思っている義兄弟だった。
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