お花見 3
「鴆ッ、何でてめーがここにっ…!」 覚えている限り己の初めてのキスの相手がわかった途端、リクオは鴆を突き飛ばして飛び起きようとしたが、 実際には身動き一つ取れなかった。 「なっ…」 ようやく己の状態に気が付けば、リクオはいつのまにか羽織と長着を脱がされ、 中に着ていた赤い襦袢一枚で布団に横たえられていた。 それだけでなく、両手首は頭の上でまとめて腰紐で縛られ、柱に繋がれている。 両脚はそれぞれ折り曲げられて、腿と脛をまとめて縛られていた。 頭痛と吐き気が嘘のように消えた後に自覚した、手首と脚のつけ根の痛みはこのせいだったのだ。 「何考えてやがる。早くこの紐を解け!」 怒りをこめて睨みつけるが、鴆は底冷えのするような薄笑いを浮かべて、リクオの身体にのしかかった。 開かされた脚のつけ根が悲鳴を上げるが、それよりも布越しに股間に当たった硬い感触にぎょっとした。 「今日はずいぶん見せつけてくれたじゃねえか…オレの前でいちゃつきやがって。 まだガキだと思って自由にさせすぎたみてえだな」 極道らしくドスの利いた声に一瞬怯みかけたリクオだったが、その勝手な言い分に、再びまなじりを吊り上げた。 「それはこっちの台詞…ぅっ…」 皆まで言う前に、唇を塞がれた。 唇など許したくないのに、強引に押し入ってきた舌は逃げ惑うリクオの舌を難なく絡め取り、 根元から扱かれれば腰から力が抜けてしまう。 口腔を蹂躙されているうちに、はだけた襦袢の合わせから手が忍び込んできた。 「綺麗な肌してんな。乳首なんか桜色だぜ…この身体に抱かれた女全員、毒羽根でぶっ殺してやりてえよ」 繊細な指の腹できゅっとつままれ、リクオは小さく喘いでしまった。 「そんなの、いねえ…ッ」 両方の乳首を責め立てるようにいじられて、思わず白状した。 すると乳首から指が離れて、リクオはほっと息をつく。 だがそれもつかの間、しばらくすると今度はあらぬ部分に冷たい軟膏のようなものを塗りつけられて、 リクオは身体を跳ねさせた。 その時になって初めて下帯を取り去られていたことにも気づき、余計にぎょっとした。 「な、何しやがるっ…」 「何って、男は濡れねえから、こういうもんを使わねえとな。あんただって痛いのは嫌だろ? なあに、気持ちよくなる成分もたっぷり入れておいたから安心しな」 自分でもろくに触れたことがないその部分を、円を描くように指でなぞりながら、鴆は淡々と言ってのけた。 気持ち良くなる成分って、それってつまり、媚薬ってやつか? この野郎、なんてものを使いやがる。 「…ッ」 そうこうしているうちに、触れられている部分が熱く、むず痒くなってきた。 「お、効いてきたか?」 図々しい男はリクオの様子を見てそういうなり、無遠慮に指を中に入れてきた。 「ぁん…っ」 薬液のせいか、狭いそこは男の指を難なく受け入れる。 痒みと熱を散らしてくれる異物感は、ともすれば快感にすり替わった。 「あっ…鴆…っ」 何とかしてほしくて、リクオは無意識に腰を動かした。 指に奥を割り広げられる痛みさえ、痒みにくらべたらましだった。 「遊んでいる割に効き目が早えな…ま、いいか。 で、今まで何人の女と寝たんだ?」 指は今や、大胆に奥まで出入りしていた。 ぐちゅぐちゅと卑猥な音が、リクオの甘い嬌声と共に、静まり返った部屋に響き渡る。 鴆の尋問に、リクオはたまらず叫んだ。 「だから、いねえって…!」 その言葉に、一瞬指の動きが止まったが、すぐに再開した。しかも指をもう一本増やして。 「いない?一人も?」 文字通り腹の中を探られる感覚が苦しくて、でもやめてほしくなくて。 リクオはこくこくと頷いた。 「へえ…じゃあ、女じゃなくて、男と寝てたのか? さっきも猩影に接吻してたもんなあ」 猩影?? 首を傾げる間もなく、内部のある部分をぐりっと押された瞬間、リクオは悲鳴を上げて身体を跳ねさせた。 頭が真っ白になるほどの衝撃だった。 「おっとここか…で、何人の男に抱かれたんだよ?」 微妙に力を抜いて意地悪く何度もそこを擦られ、リクオは達きたいのに達けない苦しさにギュッと目をつぶり、 ぼろぼろと涙をこぼした。 「だから、誰とも、してねえッ…」 ひどい男だと思った。こんなひどい奴だとは思わなかった。 「誰とも?男とも、女とも、誰とも? …ここに触れたのも、オレだけか?」 顔を背けたリクオの耳に届く声が、先刻より甘さを帯びているように聞こえるのは、絶対に気のせいだと思った。 「そう、だっ…」 だからもう、達かせてくれ、と切れ切れに懇願すると、 「リクオ…ッ」 切なげなため息と共に、三本目の指が押し入ってきた。
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