一番奥まで
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夜の薬鴆堂は、いつもと違う装いでリクオを迎えた。 数日前から、玄関先には金柑と水仙の鉢が並べられ、ドアや壁には大小さまざまな赤い張り紙が貼られている。 ぼんやりと光る赤いちょうちんを横目に庭に降り立つと、屋敷の主がいつもと変わらぬ様子でリクオを迎えた。 「旧正月っつったら、休みじゃねえのか」 「大陸だったらな。けどうちは一月を正月休みにしているからよ。」 祖父の代からの習慣で祝いはするが、診療所は開けているという。 食うか?と鴆は酒といっしょに白や黄色の餅が載った膳を勧めた。 「それからこれ、俺からな。それからそこに積んであるやつ、好きなだけ食って全部持って帰っていいぞ」 高級チョコの箱を差し出す鴆の背後には、患者からもらったという、たくさんのチョコらしき箱の山がある。 あんた甘いもん大好きだもんな、と片目をつぶって悪戯っぽく笑う鴆から目を伏せつつ、 リクオは小さく礼を言って箱を受け取った。 チョコは大好きだし、くれるというなら鴆がもらった分も全部持って帰って食う。 でも鴆からもらった箱も、鴆がもらった箱の山も、どれもきれいに包装されていて。 空き箱に入れて紙袋に入れただけの手作りチョコをここで出すのは、どうにも場違いな感じがした。 去年は渡すこと自体が一大決心だったから、そんなことまで気にならなかったが。 反応を待っている様子の鴆から、リクオは視線を逸らした。 「リクオ?」 「あのよ…チョコ、失敗しちまったから、渡すの今度でもいいか?」 鴆はそれほど甘いものが好きなわけではない。だから患者からもらった菓子もリクオにくれるわけで。 だから、リクオからチョコをもらうことに、それほどこだわっていないように思えた。 明日にでも、ちゃんと店で見栄えのよいチョコを買って渡そう、と内心思ったその時。 突然、ものすごい力で腕をひっぱられた。
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