夢に見るは貴方




今年のリクオの誕生日は日曜日だったから、鴆は土曜日の昼過ぎに本家にやってきた。

翌日は総会があり、三代目生誕の宴はその後に行われる。

屋敷中の妖怪たちが宴会の準備に追われる中、鴆も常備薬の点検や補充などをしながら、そわそわと夜を待った。

お祭り好きの本家のこと、今日の夜も前夜祭と称して酒宴が開かれるのだろうが、

日付が変わる前ならば連れ出しやすいし、誰よりも早く、祝ってやりたい。

だが、そんなささやかな願いも、夕餉の最中に舞い込んできた報告をきっかけに、実現が危うくなった。

「お食事中失礼します。山姥組が謎の妖怪集団に襲われており、至急援軍を送ってほしいとのこと」

黒羽丸の言葉に、リクオは箸を置いて立ち上がった。

状況を聞き、とりあえず山姥組の近隣の組に向かわせるよう指示を出し、自らも出立の準備を整える。

祢々切丸を掴んで廊下を行く若い大将の背中に、出入りだ!と妖怪たちが続々とついていく。

「リクオっ、オレも行」

「鴆、てめーはここで待ってろ!」

どんどん遠ざかる背中に必死でかけた声は、かろうじて届いたものの、返された言葉はそっけなくて。

有無を言わさぬ主の言葉に、鴆は悄然と従うしかなかった。




山姥組のシマは山梨県だ。

リクオは三羽烏や空を飛べるものたちと一緒に向かったようだったが、なかなか帰ってこなかった。

出入りで主が不在の本家はがらんとして、酒や食事が残っていても、どこか空しかった。

大将が不在では、出入りの様子を本家に報告しに来るものは誰もおらず、時間だけがやけにゆっくりと流れていく。

リクオは大丈夫だろうか。

彼は確かに強いが、無茶をすることも多い。一人で突っ走って怪我などしていないだろうか。

怪我人を診る用意だけは整えて、味気のない酒ではやる気持ちをごまかしていると、

二刻ほど過ぎてから、出入りに行った妖怪たちがぽつぽつと帰ってきた。

どうやら敵は流れ者の集団だったようで、交渉しようにも話を聞かず、力づくで蹴散らすしかなかったらしい。

結果的に奴良組の勝利で終わったらしいが、リクオはと聞いても、誰も知らなかった。

そのうち三羽烏が帰ってきて、黒羽丸がやっとリクオの無事を知らせてくれた。

怪我もしていないので、ここにいるものたちの治療が終わったら先に休んでいていいと。

だがそんな伝言をされても、はいそうですかと寝られるわけがない。

日付が変わり、誰も居なくなった広間で、鴆は治療の道具を広げたまま、リクオの帰りを待ち続けた。

しまいには酒も手を付けず、酔いもすっかり醒めてしまった頃。

静まり返った廊下に、足音が聞こえた。

「あれっ、鴆、まだ起きてたのかぁー?」

能天気な声と共に障子が開き、現れたその姿に、鴆は己の目を疑った。



あほの子参上?;
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裏越前屋