夢に見るは貴方
3 一瞬、誰だ?と思ってしまったのは、仕方のないことだと思う。 腰まで下りた髪、首に巻かれた金色の鎖、だぼっとした破けたTシャツに、 脚にぴったりはりついた、カギ裂きだらけの黒いジーンズ。 こんな格好をしている妖怪を鴆は一人だけ知っている。狒々の息子、猩影だ。 だが今部屋に入ってきたのは猩影ではない。 髪型も、服装も、話し方も普段の彼とは違うが、やはりその青年は、リクオだった。 「あんた、その格好…」 「あん?あーこれ、ちょーイケてね?猩影から貰ったんだ。 着物ビリビリに破けちまってよー」 その服も破けているようだが。 いや聞きたいのは服装のことではなく。 「リクオ、怪我は」 「ねーよ。それより、カラオケに誘われたんだけど、おめーもいかね?」 はあ?今から?誰と、どこに行くって?? もう日付はとうに変わってしまっている。 誕生日を一番に祝いたいと言ったことなど、まるで忘れてしまっているようなリクオの言葉に、 鴆は内心苛立ちを覚えた。 だがそれをぶつけることはせず、オレはいい、お前が遊びに行くのはいいが、 その前に本当に怪我がないのか確かめさせろと言うと、リクオはふと真顔になって鴆の表情を見つめた後、 尻ポケットから携帯を取り出した。 「「オレだけど。やっぱ今日はパス。…ああ、悪ぃ。また今度な」 一方的とも思える会話で通話を終えた後、携帯をまた尻ポケットにしまうリクオを、鴆はまじまじと見た。 「リクオ」 いいのか、と言いかけた頭を抱き寄せられた。 その瞬間、嗅ぎ慣れない香水か何かの匂いが、ふわりと漂う。 「オレを待っててくれたんだろ?ならさっさとやろーぜ」 耳元に吹きこまれた言葉は艶を帯びていて。 (扱いづれぇ…) 全く読めないリクオの行動に、思わず鴆はそう思った。
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