夢に見るは貴方




一瞬、誰だ?と思ってしまったのは、仕方のないことだと思う。

腰まで下りた髪、首に巻かれた金色の鎖、だぼっとした破けたTシャツに、

脚にぴったりはりついた、カギ裂きだらけの黒いジーンズ。

こんな格好をしている妖怪を鴆は一人だけ知っている。狒々の息子、猩影だ。

だが今部屋に入ってきたのは猩影ではない。

髪型も、服装も、話し方も普段の彼とは違うが、やはりその青年は、リクオだった。

「あんた、その格好…」

「あん?あーこれ、ちょーイケてね?猩影から貰ったんだ。

着物ビリビリに破けちまってよー」

その服も破けているようだが。

いや聞きたいのは服装のことではなく。

「リクオ、怪我は」

「ねーよ。それより、カラオケに誘われたんだけど、おめーもいかね?」

はあ?今から?誰と、どこに行くって??

もう日付はとうに変わってしまっている。

誕生日を一番に祝いたいと言ったことなど、まるで忘れてしまっているようなリクオの言葉に、

鴆は内心苛立ちを覚えた。

だがそれをぶつけることはせず、オレはいい、お前が遊びに行くのはいいが、

その前に本当に怪我がないのか確かめさせろと言うと、リクオはふと真顔になって鴆の表情を見つめた後、

尻ポケットから携帯を取り出した。

「オレだけど。やっぱ今日はパス。…ああ、悪ぃ。また今度な」

一方的とも思える会話で通話を終えた後、携帯をまた尻ポケットにしまうリクオを、鴆はまじまじと見た。

「リクオ」

いいのか、と言いかけた頭を抱き寄せられた。

その瞬間、嗅ぎ慣れない香水か何かの匂いが、ふわりと漂う。

「オレを待っててくれたんだろ?ならさっさとやろーぜ」

耳元に吹きこまれた言葉は艶を帯びていて。

(扱いづれぇ…)

全く読めないリクオの行動に、思わず鴆はそう思った。




ダメージシャツってまだ着てますかね?;
男の子のファッションにはうといんで変だったらすいません;

   



裏越前屋