下帯物語

11.カナとつらら




「げっ、家長!」

「お、及川さん!?」

奴良家の門を挟んで、着物姿のつららと、制服姿のカナは目をまんまるくしてその場に固まった。

「なんで及川さんがリクオ君ちにいるの!?」

着物なんか着て。まるでここに住んでいるみたいに我が物顔で…!

「あっ…それはぁ〜」

会った瞬間とっさに黒くしたつららの目が泳いだ。

「たまたま近くを通りかかって〜、ちょっと立ち寄っただけなんですのよ、オホホ」

かなり苦しい言い訳である。

「ところで家長サンこそ、こんな夜遅くに、リクオ君に何のご用なのかしら?」

ただ話をそらすだけにしては、やけにとげとげしい口調でつららは切り返した。

どうせリクオ様に会いたくて口実つくってきたんでしょうけど、三代目の邪魔はさせないんだから!

ところが、カナの返答はつららの予想をはるかに超えていた。

「これを届けに来たんだけど」

「こ…これって!」

カナが桐箱の蓋を開けて見せた、その中身を、つららはひったくるように奪い取った。

(私がリクオ様の為に心をこめて縫った名前入りの下帯…!)

奴良組は大所帯である。

洗濯はまとめてするので、特に混同しやすい、そして混同されては困る下帯は、誰のものだかわかるように、ひとりひとり縫い取りがしてある。

その大半は若菜がやっているが、毛倡妓やつららも手伝っている。

特にリクオの下帯の縫い取りは、全部つららがやると言い張った。

(それをなんでこの女が持っているわけ!?)

しかもどういうわけか桐箱に入れられ、いやそれはいいが、

その割には薄汚れて、変な落書きまでされている。

「と、とにかく!これはちゃんと洗ってリクオ様にお返しします!」

「ちょっと待って。なんで及川さんが!?」

つららが返答につまり、かといってモノがリクオの下帯なだけに、引き下がることもできずに睨み合っていると。

「門前で何を騒いでいる」

強大な畏に、つららも、そしてカナもビクッとなった。

おそるおそる振り返ると、着物姿の長身で長髪の男が腕組みをして立っている。

捩目山から駆けつけた、牛鬼だった。





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つららって「奴良君」だったっけ「リクオ君」だったっけ;;
旅先なので間違っていたら後で直します;;
カナとつららのいがみあいは結構楽しい(^_^;)
でもリクオ様は鴆のものだけれどね!

裏越前屋