下帯物語

12.つららと牛鬼




「届けてくれたことには礼を言う。

これは私が責任もってリクオに渡しておこう。

今日はもう遅い。帰りなさい」

重々しい声で牛鬼が言うと、カナは怯えて逃げるように帰っていった。

「これから臨時総会が開かれる。

幹部全員が集まるというのに、いつまでもここに立っていては邪魔だ。

おまえも幹部となり、側近頭となったのだ。

三代目の名を貶めぬよう、しっかりやるのだぞ」

「は、はいっ」

側近と貸元、そして今では同じ幹部同士。

立場は対等とはいえ、幹部頭を務める牛鬼の言葉には、異を唱えさせない凄味があった。

だが、新たに幹部となったからこそ、今回の緊急招集を疑問に感じる。

「あの…今日の臨時総会はどういう理由で…?」

おそるおそるつららが訊ねると、牛鬼はそれだ、と握りしめていた下帯を取りあげた。

「玉章が三代目の下帯に宣戦布告を書いて送ってきた。

京妖怪と手を結んでいる可能性もある。

雪女、お前はリクオの下帯が盗まれたことに気づいていたのか?」

目の前で拡げられた下帯に書かれた文字をあらためて見て、つららもさっと青くなる。

「いえっ…若の洗濯物に関してだけは、干したものが盗まれたことも、失くしたこともないはずです!

ただ、リクオ様のお部屋の箪笥にしまった後だと、一枚失くなってもわかりませんが…」

そこに書かれた文字は、つららの手によって厳重に管理されているはずの下帯が、一度四国の手に落ちたことを意味している。

誰かがリクオの部屋に入り、下帯を持ちだしたのか。

本家に内通者が?

この下帯が示す事態の深刻さを、つららもようやく理解し、押し黙った、その時。

突然吹きつける風と共にやってきた朧車が、門前で止まった。

「よお、一体何だっていうんだ?今日の総会は」

立ち話をしている二人の前に、懐手をした鴆が現れた。





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やっと鴆さん(元凶)登場!

裏越前屋