下帯物語
「届けてくれたことには礼を言う。 これは私が責任もってリクオに渡しておこう。 今日はもう遅い。帰りなさい」 重々しい声で牛鬼が言うと、カナは怯えて逃げるように帰っていった。 「これから臨時総会が開かれる。 幹部全員が集まるというのに、いつまでもここに立っていては邪魔だ。 おまえも幹部となり、側近頭となったのだ。 三代目の名を貶めぬよう、しっかりやるのだぞ」 「は、はいっ」 側近と貸元、そして今では同じ幹部同士。 立場は対等とはいえ、幹部頭を務める牛鬼の言葉には、異を唱えさせない凄味があった。 だが、新たに幹部となったからこそ、今回の緊急招集を疑問に感じる。 「あの…今日の臨時総会はどういう理由で…?」 おそるおそるつららが訊ねると、牛鬼はそれだ、と握りしめていた下帯を取りあげた。 「玉章が三代目の下帯に宣戦布告を書いて送ってきた。 京妖怪と手を結んでいる可能性もある。 雪女、お前はリクオの下帯が盗まれたことに気づいていたのか?」 目の前で拡げられた下帯に書かれた文字をあらためて見て、つららもさっと青くなる。 「いえっ…若の洗濯物に関してだけは、干したものが盗まれたことも、失くしたこともないはずです! ただ、リクオ様のお部屋の箪笥にしまった後だと、一枚失くなってもわかりませんが…」 そこに書かれた文字は、つららの手によって厳重に管理されているはずの下帯が、一度四国の手に落ちたことを意味している。 誰かがリクオの部屋に入り、下帯を持ちだしたのか。 本家に内通者が? この下帯が示す事態の深刻さを、つららもようやく理解し、押し黙った、その時。 突然吹きつける風と共にやってきた朧車が、門前で止まった。 「よお、一体何だっていうんだ?今日の総会は」 立ち話をしている二人の前に、懐手をした鴆が現れた。
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