下帯物語
奴良組本家には、牛鬼や鴆の他にも、続々と幹部たちが集まりつつあった。 牛鬼は鴆を客間に呼び、リクオが最も信頼しているお前だから話すのだが、と前置きして、一部始終を話し、問題の下帯を見せた。 四国からの挑戦状にリクオの下帯が使われたと知って鴆は驚き、そしてギリリと奥歯を噛みしめた。 「よりによってリクオの下帯を盗み出すたぁ、とんでもねえヤローだ。 ひっ捕まえて鴆毒を飲ませてやりてえ…!」 憤る鴆に、牛鬼は重々しい表情で頷いた。 「雪女は特に盗まれた洗濯物はないと言っている。 となれば、何者かがリクオの部屋に忍び込んで盗んだ可能性が大きい」 「ああ。リクオの下帯ならうちにもあるが、盗まれた形跡はねえからな。 となるとやはり本家の誰かが…」 鴆が考え込みながら口にした言葉を、牛鬼が聞き咎めた。 「待て。リクオの下帯が、なぜ薬鴆堂にある」 牛鬼の問に鴆は肩を揺らしたが、あくまで平静を装った。 「なぜってそりゃあ、うちによく泊まるし、替えがなきゃ不便だろ? 夢中になってどっかにいっちまうこともあるし」 そこまで答えて、鴆はふいに口をつぐんだ。 棒をのみこんだような顔で、目の前の下帯を凝視する。 「…これってまさか、あの時の」 喘ぐように呟かれた言葉を、牛鬼はもちろん聞き逃さなかった。 「あの時?」 その時、閉めていた障子がスパンと開き、夜の姿のリクオが現れた。 「ここにいたのかよ。一体何だっていうんだ?今日の総会は…って、牛鬼…?」 物騒な気配に満ち満ちた畏が、鴆と、それからリクオまでもを後じさらせた。 二人の目の前で、すさまじい形相をした牛鬼がゴゴゴ・・・と仁王立ちになっている。 「どういうことなのか説明してもらおうか。鴆、それから三代目」
|
||