下帯物語

3.一ツ目




「お前が庭でぼーっとしているなんて珍しいのう。狒々がいたころは盆栽など見向きもしないって聞いとったが」

「お、叔父貴…」

おそるおそる振り向くと、そこにはキセルを咥えた一ツ目入道が、懐手をして猩影を見上げていた。

何やら苦虫を噛みつぶしたような表情だが、彼は平素からそんな顔をしている。

「今夜は暑いなあ〜ここに来るまでに汗だくになっちまった。ちょっとその手拭いを貸してくれ」

「えっ」

止める間もなかった。

一ツ目は猩影の手から勝手に下帯を取り、額の汗を拭った。
そればかりでなく、顔全体と、首のまわりも丁寧に拭う。

「どうした、猩影。間抜けなツラして。お前も顔が赤いぞ。

…ん?随分長い手拭いだな…」

丁寧に折りたたまれた布を広げていくにつれ、ようやく「手拭い」の正体が明らかになった。

一つしかない大きな目がこれ以上ないくらいに見開かれ、口からキセルがポロリと落ちた。

「げえ!何だこれ!ふんどしじゃねえか!」

汚ねえッ!と慌てて下帯を放り投げ、自分の袖で顔を拭き直す。

放り投げられた下帯は地面には落ちなかった。生温い風がさらい、空高く舞い上がる。

「あっ…」

猩影があわてて手を伸ばしたが、届かなかった。

「あ、わりい。お前のふんどしだったな。なに、ちゃんと新しいのを買ってやるって」

一転して機嫌を取るような口調になった一ツ目の言葉をよそに、猩影は下帯が消えた夜空を、いつまでも名残惜しそうに見上げていた。





 


猩影や一ツ目の口調がよくわからない;;

裏越前屋