下帯物語
「痛だだだ…」 山中の川のそばで、愛用の包丁を研いでいた赤なまはげは、皮一枚を切ってしまった赤い手のひらを押さえて痛がった。 「おめど、何どごやってるだ?ドジ」 傍でくつろいでいた青なまはげが声をかける。赤なまはげは全身が赤いからよくわからないが、血はほとんど出ていないようだ。 「ほんたら怪我でいちいち騒ぐな」 「んだども、ばい菌が入ったら大変じぁねか」 怖い顔の割には意外と心配性である。 「ちょうどええ。これどご巻いて、ばい菌どご防ごう」 「好きにしな。もういぐぞ」 下帯を手に巻き付け、満足げな赤なまはげに、青なまはげが声をかける。 二匹の妖怪はようやく腰を上げ、故郷の遠野へと帰っていった。
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