下帯物語

8.玉章




四国。緑の深い山あいからせり出した小さな岬に立ち、きらきらと輝く太平洋を眺めていた玉章の足元に、白い塊が寄ってきてクゥーンと甘えるように鳴いた。

「どうした、犬」

どういうわけか玉章なついている子犬は、何かが書かれた白い布を咥えて、得意げに尻尾を振っていた。

手に取ってみると、それは下帯だった。

帯の端には赤い糸で「リクオ」と縫いとりがしてある。

下着として使われるはずのそれには、一面に文字が書かれていた。

「…フン、へぼ歌人だな」

和歌を読んで、玉章はせせら笑った。

「犬、ちょっとこれを咥えておけ」

「わん!」

玉章は犬に下帯の端を咥えさせると、布をぴんと張り、もう一方の端を下駄で踏みつけた。

それから赤い墨をつけた筆を取りだし、残っている左手で、次のように訂正した。

『みちのくの旅の途中で我思う

いつまでもお待ちしております 羽衣狐様

いつか必ず 刑部狸玉章

このままでは終わらない。終われるはずがない。

「これはあいつに送り返してやるさ」

あの男はこれを、宣戦布告と見なすだろうか。それもいい。

玉章は岬に並ぶ幹部たちの墓石をしばらくの間眺めて、それから背を向けた。





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添削されてしまいました。
玉章の歌はもっと上手いとおもいますが、なにせ私が白蔵主レベルなので;;
和歌を作れる人尊敬します・・・!

裏越前屋