ハロウィン
10月31日。ケルト人の収穫祭の前夜であったこの日には、霊界の門が開き、先祖の霊が子孫に会いにくると信じられている。 「・・・っていっても、進さんハロウィンとか興味なさそうだよね」 夕食を食べた後、ぽてぽてと夜道を歩くセナの手には、ほのかにオレンジの光を放つ、小さなジャック・オ・ランタンが先端についたスティック。 (いつも遅くまで練習している進さんだけど、この時間なら帰っているよね) 進が大学生になって一人暮らしをはじめてから、週末にセナが泊まりにいくのは半ば習慣になっているけれど。 不安になってきたところで、進のマンションまで来てしまった。 (えーっとえーっと、まもり姉ちゃんがいっていた呪文、なんだっけ?) 思い出せないまま、かぼちゃのスティックを進に突き出し、言った。 「ディスイズアペン?」 二人は玄関先で見つめあったまま、たっぷり5秒が経過した。 「とりあえず入れ」 と進に促されたのだった。
「夕食は食べたのか」 テーブルの上にはホットココアとクッキー。どちらもセナのためにこの部屋に常備されているものだ。 (僕、何しにきたんだっけ?) 進に会いに来た。ならばこの体勢は間違っていないはず・・・いやいや。ハロウィンだから来たのだ。でもそれは口実で・・・口実だけど・・・口実の時・・・あれ? 「どうかしたのか」 突然腕の中で落ち着きをなくしたセナに、進が声をかけた。セナは慌てた。 「いえあのっ・・・今日は突然きてしまってすみませんっ」 いまさらながら、連絡せずに押しかけたことを謝れば、進はなんだそんなことかという顔をした。 「俺はいつでもお前に会いたいと思っている。今夜も思いがけずお前に会えてうれしい」 セナの大好きな男らしい顔が、やさしい瞳でセナをみつめている。その顔がゆっくりと近づいてきて、セナはうっとりと目を閉じた。 我に返ったのは、思う存分お互いの唇をむさぼりあった後だった。 (だから今日は平日だってば!) もう部活は引退しているから朝練の参加は任意だが、学校はある。このままうっかり流されるわけにはいかない。 「あ、あのっ、今日は僕これで帰りま――」 慌てて膝から降りようとするセナの腕を、大きな手ががしりとつかんだ。 「今夜はハロウィンだから来たのだろう」 進の口から出た思いがけない言葉に、セナは動きを止めた。 「?あ、はい」 『トリック』か『トリート』か??えーと、確か、まもり姉ちゃんがいっていた呪文?? 「・・・あの、それって僕が選ぶんですか?」 う、とセナは答えにつまった。なんだかわからないけど、嫌な予感がする。 セナは答えを待っている進の顔をしばらくさぐるようにじっと見つめ、そして言った。
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